カテゴリ:漫画道
カリスマ・テーマ・読者の想像を超えた展開など
「一歩」には不足していると述べましたが、もう一つは“ヒロイン”の存在です。 ジョーが パンチドランカーになったのも、力石が死んだのも、カーロス・リベラが廃人になったのも、全ては葉子が原因である。 もちろん、彼女の思惑とは別の結果。 力石は過酷な減量に耐え切れなくなって、遂に水を求めて水道の蛇口に向かってしまった。 しかし、見張り役の練習生が(葉子の指示で)蛇口に針金を巻きつけて、水を出せなくなっていた。 それでも、減量に耐えかねて水を求めて暴れる力石に、人間としての弱さを見た葉子は嬉し涙を流しながら、 「これを飲んだからといって 力石徹が力石徹でなくなることなんて絶対にないのよ! 私は、あなたが人間としての弱さを少しでも持っていてくれたことが、とても嬉しい」 と、コップ一杯の水を差し出した。 その言葉で自分を取り戻した力石は、水を捨てて“打倒矢吹”に更なる決意を誓った。しかし、その葉子の言葉がアダとなって力石は帰らぬ人に。 カーロス・リベラは、(力石を殺して、ボクサーとして立ち直れない)ジョーの野生を蘇らせるために葉子がベネズエラから来日させた。 そして、ジョーと戦い廃人に。 野生・ジョーはリベラとの試合で再生したかに見えたが、まだ納得しない葉子は「野生児・ハリマオ」を刺客として送り込んだ。 結果、それがジョーのパンチドランカーの症状を悪化させる原因になった。 彼らは葉子に翻弄されたといえる。(だから女は恐ろしい) 財閥の娘がボクシング界に関わることで色んな弊害(へいがい)を生んだが、一番そのことを表しているセリフがあった。 それは、試合中にコーナーで休憩しているジョーが、リングのコーナーから(リング外の)葉子に向かってうがい用の水をブッ掛けながら、 「女が俺達の世界に顔を出すんじゃねぇー!!」 と、怒鳴るシーンである。 ただの町のチンピラにセレブなお嬢様が恋をする……という設定は、原作者の意向だと思われるが、これが作画家にはよく分からなかったらしい。 だから、紀子が出てきたと思われる。 (原作には、紀子はいなかったらしい) 普通の娘が“ささやかな幸せ”を求めてジョーに恋をするが、結局彼にはついていけなかった。 完全無欠の世界チャンピオン、ホセ・メンドーサとの試合で廃人になるかもしれないリングに向かうジョー。 しかし、葉子は控え室で愛の告白をすると共に(パンチドランカーの)ジョーを引き止める。 「廃人となる運命が待つリングに、あなたを行かせるわけにはいかない」 という、葉子を振り払うジョーのセリフが格好よかった。 「リングには、世界一の男が俺を待っているんだ」 ジョーは試合が終わった後、葉子に試合で使ったグローブを手渡す。 「これを……アンタに、 受け取って欲しいんだ」 これは、ジョーの精一杯の愛情表現だったのだろう。 実はジョーは葉子に初めて会った時、一目惚れしていた。 しかし、意地っ張りな彼は、そのことをひた隠しにして葉子に突っ張っていたのだ。それも、好きなればこそ。自分に素直になれない子供のような心境である。 しかし当初、葉子はチンピラ・ジョーには目もくれず、力石に恋をしていたと思われる。(力石もまた葉子に恋をしていた) それが、結局は巡り巡ってジョーと葉子が……という運命のいたずら。 そのジョーは、葉子によってパンチドランカーを加速させ、廃人に……。 やはり「あしたのジョー」は、いろんな意味で名作である。 つづく。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2021年09月04日 23時49分37秒
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