物質のすべては光
「物質のすべては光 現代物理学が明かす、力と質量の起源」フランク・ウィルチェック(吉田三知世訳)(早川書房)「強い相互作用の理論における漸近的自由性の発見」の功績によりノーベル物理学賞を受賞した物理学者による著作。全くの門外漢だけど、最先端の物理学が何を追い求めているのか知りたくて手に取った。訳もいいのかもしれないが、文章が上手い!P9 「原書の題について」から。「『存在の耐えられない軽さ』(The Unbearable Lightness of Being)というのは、わたしの好きな本のひとつ(中略)である。(中略)クンデラが取った物語と芸術を通してのアプローチと、わたしが本書で取った、科学と(そんなに深くはない)哲学を通してのアプローチは、まったく違ってみる。少なくともわたしの場合は現実の深い構造を理解するようになったことで、存在は耐えられるものになったのみならず、魔法をかけられたものに-そしてわたしたちを魔法をかけて魅了するものに-なった。というわけで、『耐えられない』を取り除いた『存在の軽さ』(The Lightness of Being)という題が本書にはつけられている。」冒頭から引き込まれてしまった。P23 「第1章 『これ』に取り組む」から。昔むかし、物質と呼ばれる、実体を持ち、重たく、永遠なるものがありました。そして、これとはまったく違う、光と呼ばれるものがありました。人々は物質と光を、別々のデータの流れとして感覚器官で受け取りました。(中略)物質と光は、人間が認識している、対照的な両極として捉えられた現実のさまざまな側面ー肉体と精神、或ることと成ること、地上のものと天上のものーのじつに巧い比喩となり、今でもなお、そのような比喩として使われています。」P28 「第2章 ニュートンの第ゼロ法則」から。「質量は作り出されることも失われることもない」あるいは「物質とは質量を持つものである」というニュートンが定義と考えた第ゼロ法則について。「わたしが古典力学を教えるときは、まず、この隠れた前提を『ニュートンの第ゼロ法則』と呼んで、(中略)この法則は間違っているということを強調する。(中略)ニールス・ボーアは、二種類の真実を区別していた。普通の真実とは、その逆が誤りである主張。深い真実とは、その逆もまた深い真実である主張、という区別だ。この精神に則れば、(中略)ニュートンの第ゼロ法則は深い誤りだった。それは、物理学、化学、そして天文学を二〇〇年以上にわたって支配した『旧体制』だった。」P39 「第3章 アインシュタインの第二法則」から。第一法則E=mc2を変形したm=E/c2、あるいは第ゼロ法則と呼ぶべきと著者はいう。アインシュタインの元々の論文「物体の慣性はそのエネルギー内容に依存するか?」にもこちらの形で出てきている。著者はこれを「物体の質量の一部がその物体に含まれる物質のエネルギーから生じることがあるのだろうか?」と言い換える。P55 「第5章 内側にいたヒドラ」から。高エネルギー衝突実験の結果を受けて・・・。「フェルミが言っていたドラゴンは、一層たちの悪い、あのギリシア神話のおぞましき怪物ヒドラと化し、悪夢のように物理学者たちを悩ませた。ヒドラを切り刻んでも、一切れ一切れからまたヒドラが出てきてしまう。」P77 「第6章 物質(イット)のなかのビット」から。1990年にノーベル物理学賞を受賞したフリードマン、ケンドール、テイラーの「クォークの存在の実験的発見」に絡んで。「高分解能の短時間スナップショットを撮影するには、運動量とエネルギーはものすごく曖昧なままで我慢しなければならないことになる。(中略)彼らの技法は、ハイゼンベルクの不確定性原理を巧みに利用して確定性を得る、すばらしい例だ。ようするに、陽子に手渡されるエネルギーと運動量のさまざまに異なる、多数の衝突の結果を総合して、空間的・時間的に高分解能の画像を得ることができる、ということなのである。そのあと、いわば不確定性原理を逆向きに働かせるような画像処理をかける。」どんな処理なんだろう??フーリエ変換と書いてあるが・・・「不確定性原理を逆向きに働かせる」って。P83 同じく第6章から。著者らの漸近的自由性について。「クォークとの距離がゼロに近づけば近づくほど、その雲の奥深くの有効色荷もどんどんゼロに近づくが、ゼロそのものになることは決してない、ということである。色荷がゼロとは完全な自由を意味する。どんな影響を外に及ぼすこともなければ、外からのどんな影響も感じることはない。」著者は「反遮蔽」という言葉を「いただけない」と言っているが、「漸近的自由」も「あまりましになったとは言えない」と吐露している。その代わり、「荷なしに生まれる荷」を「魅力的な名前」と言っている。でも・・・いずれにしても分かりにくいわ!P90 引き続き。「クォークとグルーオンがジェットとして現れることと、漸近的自由とのあいだには、直接のつながりがある。フーリエ変換を使えばその結びつきは簡単に説明できるが、(中略)ここでは、厳密さでは劣るが、もっと想像力に訴えかける(中略)、言葉による説明を試みよう。」ただ、その後に続く言葉による説明でも残念ながら、まだイメージできない。「強く相互作用しているのは、中心にある粒子のチャージではなく、周囲を取り巻いている雲なのだ。」とある。「雲」、「仮想粒子」がキーワードなんだと思うが・・・。P97 「第7章 具現化した対称性」から。「現代物理学では、対称性は(中略)より包括的な法則を構築するうえで、実に有効な指針となる(中略)。たとえば、特殊相対性理論も対称性の公理と見なすことができる。(中略)このブースト(註:ローレンツブースト)という操作は、一つの世界を、それに対して一定の速度で運動しているもう一つの世界に変換する。特殊相対性理論は、この『一つの世界とそれとは別の世界』という区別には、差異は一切ない(中略)。」本章の冒頭で著者は「対称性とは、差異なき区別があるということ」と述べている。「三角形の世界」を使った、それに続く説明はわかりやすかった。P100 引き続き。P98にQCD(量子色力学)のラグランジアンが掲載されていて、それに続く説明。「QCDの主要方程式の中身をそれぞれ取り出して見ると、それらは、対称性ー色のあいだに成り立つ対称性、空間のさまざまな方向に関する対称性、そして、一定の速度で互いに運動している複数の系のあいだに成り立つ特殊相対性に関する対称性ーに関係付けられた方程式であることがわかる。(中略)ということで、ここでようやく、どうぞ心置きなく感動してくださいとみなさんに言うことができる。これはほんとうにエレガントな理論なのだ。」まだ感動できるほど理解できてないんだけど、いつかは理解したいなと思っている。というわけで、長くなりそうなので一回ここで切ろう。続きはまたいずれ。物質のすべては光 現代物理学が明かす、力と質量の起源 (ハヤカワ文庫) [ フランク・ウィルチェック ]