カテゴリ:ある女の話:ユナ
今日の日記
( ポケモン映画「アルセウス超克の時空へ」感想とドラマ「ブザー・ビート」感想☆ ) <ユナ16> 口に出してから、しまったと思った。 いや、でももういいやって気持ちもあった。 誰かとしゃべりたい。 自分の本音をしゃべれる誰かと。 この男が言ったことが、もしも本当なら、 本当なら… 本音を話してくれたことになる。 男は私を全身眺める。 「ホント?ホントにいいの? やめるなら今だけど。」 「じゃあ、やめます。」 「あ、いや、行こう。 ドコがいいかな?って言っても、 俺は飲み屋しか知らないんだけど。」 「いいですよ。飲み屋で。」 「何だかヤケになってない?」 「何でそう思うんですか?」 「いや、…何か。 ううん、何でも無いや。行こう。」 私は男の後について行く。 自分でも、こんなのバカじゃないかと思う。 思ってきた。 逃げる?逃げようか? 頭はそう思っているのに私の足は逃げ出さなかった。 男は個人でやってそうな居酒屋に入った。 まだ時間が早いせいか、店はガラ空きだった。 男はビールを頼んだ。 私はサワーを頼む。 美味しそうな感じの和風のつまみをいくつか頼んだ。 「じゃあ、はい。お疲れ!」 男が私とジョッキを合わせる。 美味しそうにビールを飲んだ。 あ、何かこの雰囲気って、会社帰りにみんなで飲んだのと似てる。 つまみは手作りって感じがして美味しい。 「おねーさんさ、どうしてパチンコなんかしてたの?」 「え?あ、ちょっと入ってみたかっただけなんだけど…。」 「なんかさ、危なっかしいよね。 キョロキョロしてたし。 あんまりやったこと無いんでしょ? それにさ、一人でパチンコしに来るタイプじゃない気がしたし。 何かあったの?」 私はお酒を一口飲んだ。 「何か無いとパチンコしちゃいけないんですか?」 「いや、そんなこと無いけど。 結婚してるんでしょ?」 薬指の指輪を指す。 「うん。」 「わかんないな…。 どうして一人でパチンコしてたり男についてきたりするのか。」 私はちょっとどうしようか考えて、自分のことを話すことにした。 どうせ、今だけの相手だ。 「実は夫の転勤で仕事を辞めてついて来たんですよ。 で、今はハローワークに通って、失業保険をもらってるの。 今って毎日、変な感じで…。 私はどこにも属して無いっていうか、何か宙ぶらりんで。 何て言うのかな…。 授業サボって街に出てきた気分。 だから、どうせなら悪い事やってみたくなったの。 パチンコでもやってやれー!って。 で、スるかと思ったら当たったから拍子抜けしちゃって。 男の人に声かけられるのも久しぶりだったし。 もうとことん落ちてやれ。 ってちょっと思ったりしたの。」 「ふーん。そうなんだ? じゃあ、俺がホテル行こうって言ったらついてきた?」 「ううん。そこまでは度胸無いです。」 「度胸でホテルに行くワケ?」 私はちょっと考える。 そうよね。それは度胸じゃないな。 だいたい好きでも無い男とホテルって。 お金もらっても行きたくない。 「あ、ごめん、冗談。 スケベな話すると逃げちゃうよな。 え~と、何歳? あ、コレも失礼なのかな?」 私が考えているのを、他の意味で取ったらしい。 話題を逸らそうとする。 「26歳です。」 「はは。若いね。結婚して何年?」 「3年かな。 若いって歳でも無いと思うんですけどね。」 私はパチンコ屋で見た女の子たちを思い出す。 「そんなこと無いよ。俺から見たら、充分若い。 子供は?」 「いないです。」 「ふーん。なるほどね。」 「そっちは何歳なんですか?」 「オレ?オレは32。」 6つ上か。そんなに上には見えなかったんだけどな。 2・3歳上かと思った。 「さっきの話は本当なんですか?」 「え?何?何の話?」 「別居したって話。」 「うん、あー。ホントホント。 性格が合わないんだってさ~。 だから別れて欲しいんだって。 いや、多分他に男ができたんだろうけどね。 ったく、結婚してからンなこと言うなって言うの。」 多分、この人も今だけの相手だから、 こんなに自分のこと暴露してるんだろうと思った。 「子供は?」 「いないよ。だからかね。 簡単に別れようなんて言うのは。」 「そうなんだ…。 奥さん何歳なんですか?」 「うん?29歳…」 「ホントにホントの話?」 「まー、シャレや冗談では言わない話だね。」 「今どこにいるんですか?奥さん。」 「さあ…。もうどうでもいいし。」 顔がフッと暗くなった。 あんまり聞かない方がいいのかもしれない。 当然かな。 土足で心に入ってるようなもんだよね。 「私とこうして飲んでても楽しいんですか?」 「うん。別に一人で飲んでてもいいんだけどね。 ちょっと飽きた。 俺さ、ちょっと行ったとこで店やってんの。 バーレストランってやつ。 たまには自分ちのじゃない酒が飲みたくなるんだよね。」 どうもこの人と話してると深い話になっちゃうなぁ~。 私はぼんやりと思った。 「私もね、同じ感じ。 ほとんど一人でご飯食べてるんですよ。 二人分のご飯作って一人で食べるの。 何だかちょっと最近疲れちゃってね。 もういっそ、一人分なら楽なのになぁ~って思っちゃうの。 あ、こういうこと言うの悪い奥さんってやつなんだろうね。 ここにいるのもだし。」 「ん?あ~。まあいいんじゃないの? 俺が同じ立場でもそう思うよ。 もしそれが悪いことだって思うなら、もう作るのやめちゃえば?」 「そしたら、帰ってきた時、何も無くて可哀想じゃないですか。」 「そんなの、あるのが当然って思ってるソイツが悪いんだよ。 ちょっとは感謝するべきだよ。」 「だって、私働いてないから、家の仕事しなきゃ、 家にいる意味が無いし。」 「でも、アナタさ、メイドじゃないでしょ? 奥さんでしょ?そういうのを放棄したら離婚なの?」 「じゃあ、奥さんがいる意味って何ですか?」 「う~ん。何だろうね~。」 男は楽しそうに酒を飲んで考える。 「あのさ…、 あ、やめた。ちょっとスケベな話かも。」 「何ですか?いいですよ、別に。 もう女の子ってワケじゃないし。」 「いや、つまんないこと。」 「予想はつきますよ。 でも、そんなの結婚しても性欲のある人だけじゃないんですか? 私はある意味、 ハウスキーパーって仕事をしてるんじゃないかと思ってるんですけど。」 「はは。そう考えると雇用契約みたいだね~。」 「契約ですよ。結婚なんて。」 「冷めてるね~。」 私はちょっと泣きたい気分になる。 お酒のせいかもしれない。 普段の不満なんて、小さな気持ちだったのに、 大きなことになってしまったような気分になる。 「だいたい変ですよ。 結婚するまでは男と女がHすることはいやらしいなんて言ってたのに、 結婚したら、みんなが子供はまだ?って言うんですよ? ある意味、「やってるの?ダンナさんともっとやりなさいよ!」 って言ってるようなもんです。 親まで率先して言ってるんですよ? Hまで仕事みたいで、ワケわかんないです。結婚なんて。 最近思うけど、大っぴらにHしていいですよ。 って認められる儀式なんじゃないかな?って思います。」 男は面白そうに笑った。 「あ~、なるほどね。 俺は子供のためにある法律なのかと思ってたよ。 ほら、子供って親が必要じゃん。 だから別れさせないようにする契約書なんだよ。」 「じゃあシングルマザーはどうするんですか? 子供がいない夫婦は?」 「子供がいない夫婦にとっては、 愛の誓いの証明書なんじゃないかな? ずっといっしょにいますってさ。 人間弱いから、そういう契約でもしないとダメなんじゃないの? 心は縛れないからね。 でもせめて見えるモノに頼りたくなるんじゃない? シングルマザーは、人によるんじゃないかな? きっと一人でも親二人分愛してあげるんじゃないの?」 男がスラスラと思ったことを口にするのが心地いい。 そういえば、サトシとこんな会話したことあったっけ? なるほどね~。と私は頷いてみる。 「恋愛の延長が結婚なのかと思ってましたよ。」 「まあ、それもある意味正解だとは思うけどね。 国語と同じで答えが一つじゃないんじゃないかな?」 …と、俺は思うよ。 男は酒を飲んで、 低い声でボソリとつけ加えた。 「私はまだわからないです。 そういうの。」 わかるような気もしたけど、 自分の中でよくわからないことに同意するのも何だと思って、 口がそう言っていた。 「うん。そうだね。 俺も結婚とか、 何でするのか、よくわかんないよ。 よくわかんなくなった。」 「じゃあ、離婚しちゃえばいいじゃないですか。」 「他人事だと思ってアッサリ言うね~。」 「他人事ですよ。」 「明日は我が身かもしれないよ?」 「そんなことないです。」 「そうかな?俺が帰さなかったらどうなるかな?」 男がジッとこっちを見る。 「声をかければ、誰でもついて行ったの?」 「それは…」 私は口篭る。 ついて行ったと言えば嘘になるだろうし、 ついて行かないと言えば、じゃあ何でって話になる。 「ヤケになってたりするんですか?」 「そうだね~。ちょっとね。 アナタと同じで、宙ブラリンな感じではある。 自営業だしね。 今日だって、勝手に閉店しちゃったんだよ。 初めてだよ、こんなことしたの。 あ~あ。どうしようもねーよな…。」 最後は独り言みたいに言った。 何となく酔ってなさそう…。 飲んでも飲んでも酔わないタイプなのかもしれない。 私はそうじゃない。 ヤバい。 何とか帰らないと…。 この男は危険だ。 本能がそう言ってる。 「冗談だよ。 家庭壊すなんて簡単だよってこと。 もう別に、そういう一時の慰めとか欲しいワケじゃないからさ。」 男がクックと笑う。 私はちょっとホッとした顔をしてしまったらしい。 男は続けた。 「だからさ、もし良かったら、こうしてたまに話せないかな? アナタは打てば響くタイプの人みたいだし、 話してて飽きないや。」 帰れるなら何でもいい。 でも、私も同じことを思っていた。 この人は面白い。 このまま別れるのは、何だかもったいない。 「いいですよ。 こんな感じでいいんだったら。」 「じゃあさ、一人で飯食うの淋しくなったら、ここに連絡して。」 男は名刺のようなものをサイフから出してきた。 そこには男の店の地図と電話番号が書いてあった。 「暇ならおいで。 今度はサワーじゃなくて、カクテル作ってあげるよ。」 私は頷いた。 男の名前は、ヨシカワシュウジと言った。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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