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虹色のパレット

7.先生失格

7.先生失格

人は、みな「今」生きているのだけれど、「今」を何にどんな風に使っているかと言う事で、そこに現れる今は、ずいぶん違ったものいなってくる。
 子ども達と、わいわいがやがやの教室にある今は、未来的で発展的で、何時も次に何が起こるか分からなかった。新しい事が起こる度に、私たちは、未熟である事を認め合い、そこから出発しお互いに学び合い、成長しあう事が出来る「今」だった。
 先生方と打ち合わせをしたり会議をしたり、人の噂話に花を咲かせる職員室にある今は、過去的で停滞的で、「ああ、またか。」と思う事が多い今だった。そして、ここでは、そう思う私は、「いいね、若い人は理想に燃えていて。でも、現実ってそういうもんじゃないよね。」とか、「若いのね。まあ、そのうちに色々分かってくるわよ。」とか言われたりする私だった。

 これらの二つの今の間で、私は、徐々に引き裂かれていった。確かに、私は若く、まだまだ理想に燃えていたし、現実というものを知らな過ぎたかもしれない。何十年と教員生活をし鍛えられてきた先輩の先生方から見れば、私は、弱々しく、人生というものに迷いや不安が多すぎたに違いない。

 「うちの組のAね、全く困っちゃうわ。一人の為にクラス中いい迷惑よ。」
「何処の組にもいるんだね、そういうの。僕んとこのBね、あれにもこ困ったもんですよ。」
「それに、あの子のお母さん、全く常識がないんだから。あの親にしてこの子有りって、よく言ったのもね。全くこのっことよ。」
 そんなのを聞くと、私は、「ああ言うの、大人の世界の挨拶みたいなもので、大した意味もないのかな。若すぎて、未熟すぎて、私にはまだそういうことがわからないのかなぁ・・・。もっと経験を積めば、私もああなるのかなぁ。」とか変な気持になる。
 「おはよう。」とか「ご苦労さん。」とか言う感じで私も調子を合わせちゃえば、どうってことないのかも知れない。人間関係も、それでスムーズに行くのかなとか思いながら、黙って、採点とか次の日の用意とかしていると、
「カズ姫先生んところにはそういうのいない?Dなんかどう。結構悪さしてるんじゃない?」
なんて話しかけられたりする。
「そうなんですよ。全く困ってるんです。何か良い方法ないですか?有ったらぜひ教えて下さい。」
とか言えば、私も良い先生になれるんだろうなと思いながら、実際には、「別に・・・。困るっていう子、いないんじゃないですか。D君だって元気で悪戯もするけど、困るってことないですが・・・。」
なんて本当の事を言ってしまう。そこで、それまで面白そうに油ののっていた会話は何となく途切れてしまう。私は、気まずい雰囲気が私に向けてもうもうと立ち込めるのを感じるけれど、「やっぱり、ああ言うのに調子合わせられないな。」と思わずにはいられない。
 そんな事がある度に、「こんな事じゃあ、私は、先生やっていけないな。」と思いながら、でも、実際はそういうことが出来なくて、私は、先生失格の道を真っ逆様に落ち始めているのだった。

 今、ここに、こうして先生方がいらして、この先生方はずうっと長い事教育という事に携わっておられるのだから、やっぱり私にはまだ分からない何かがあるんだろうなとか思いながら、対立的な関係にならないように心がけるのだけれど・・・。
 職員室で散々子どもの悪口を言っておいて、教室に行って、「D君いい子ね。」なんて私には言えない。私はまだまだ未熟なのだろう。そんな風に巧くやっていけない。
 教室と職員室の間で、子どもと大人の間で、未来に向かう今と過去に落ち込もうとする今の間で、私は再び「駄目だなー。」という思いを深めていった。/font>




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