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カテゴリ:短歌/俳句/小説/戯曲
純一 そう。その共感した部分が「志望動機」だね。 (亘 この人の教え方は本当にすごい…まるで、学生の心の動きを見抜いているようだ) 純一 学生はよく「いい情報がない」って言うけど、実はそれ以前に、「よい質問をしていない」だけだ。そして、判断基準がないから正しく処理されず、じきに「情報が氾濫してる」と言い出す。 離職率、有給休暇、福利厚生…確かに気になるだろう。しかし、同じことを聞くにしても、「若手で活躍している人は、どんな自己管理をしていますか?」とか、「トップ営業マンは、休日をどう過ごしていますか?」とか、「働きやすい職場環境作りのための工夫は?」とか、色々と、相手が喜ぶように、答えるのが楽しくなるように聞くことはできるだろう? それを「今何位?」、「資本金いくら?」、「売上いくら?」、「株主どこ?」なんて聞いたって、集まるのはどうでもいい情報ばかりで、働く意欲が湧いてくるような知識は一つもない。 (亘 …オ、オレが落ち続けた理由は、コレだ!) 純一 会社は資本金を運用して事業を育てるんだ。だからこそ、「増資でどんな事業展開をお考えですか?」と聞けば、財務戦略以外の情報も掴めるし、「株主の方はどの点を評価されているんですか?」と聞けば、株主構成が分かることはもちろん、提携の基準や出資の着眼点も分かって、営業の武器にもなる。 財務情報ばかり集めたって、ハートがこもってないと、何の意味もない。そんなのは、会社や仕事を冷たく解剖して、分析しているだけだ。 内定し、その先も活躍したければ、もっと、事業や仕事を優しく、丁寧に、じっくりと見つめることだ。そうすると、社長のビジョンや社員の努力が調和した、美しいハーモニーが聞こえてくる。それこそ「ホットデータ」であり、ホットデータの骨格がクールデータだ。 麻衣 …学校じゃ、絶対にこんな話、聞けません。 亘 今のお話で目が覚めました。僕は今の今まで、まだ内定していないことを恥じていましたが、逆に今は、「あのまま内定しなくてよかった」とさえ感じています。本当にありがとうございます。 純一 僕は大学を卒業していないから、大学の就職指導なんて知らないよ。 (亘 えっ…?) 美里 就活って、めっちゃ奥深いじゃん。あたし、美術館に行くのが好きだけど、純一さんの話、美術の鑑賞とおんなじだって感じました。 純一 そう。基本は全く変わらない。RUNの学生たちが愛読する作品に、「美を求める心」という小林秀雄のエッセイがある。『考えるヒント3』っていう、文春文庫から出てる本に入ってるから、ブックオフで探すといいよ。 僕が毎年、学生たちに教えているのは、花や自然を丸ごと見つめる、愛情溢れる企業研究の着眼点だ。美里ちゃんと麻衣ちゃんはとても感性が優れている。 亘君も、大事なことに気付いたね。仕事への愛情、つまり本質的な職業観と、そして会計的視点。これがあれば、就活も、仕事も、起業も、必ず成功するよ。 亘 うぅ…ほんとによかった。麻衣、ありがとう。誘ってくれて。 麻衣 どういたしまして。 (二人、握手) 美里 じゃあさぁ、あの人たちが「豚骨、それとも味噌?」って話してたのも分かるなぁ。 純一 何のこと? 美里 いや、その「不満そうな学生たち」が、「いい会社ないね」、「業界一位の会社ないね」って言いながら、「腹減った」って言って、ラーメンの話してたんです。ありえない! 純一 食事までクローズ・エンドか。合説でどんな質問してたか、目に見えるようだ。 麻衣 この質問じゃ、目の前にいい会社があっても気付けないし、志望動機も見つかりませんね。 純一 「心ここに在らざれば、見れども見えず、聞けども聞こえず」って宮本武蔵も言ってるよね。本質が分からないと、目の前のことさえ正しく把握、理解できないんだ。 麻衣 大学には、そういう学生ばっかりです。私の友達も、客室乗務員目指してるんですけど、形式的なことばかりにこだわってて…。 純一 悪いけど、それは高いお金を払って東京と福岡を往復するだけになるね。 麻衣 それだけじゃないんです。四年生も、三年生に劣らず大変です。私たちの教えられてきたことって、全然、就活の本質とは関係ありません。 (三人、純一を見つめる) 亘 しかしさぁ、どうして、揃いも揃って、学生たちは同じような考え方してるのかなぁ。ま、オレもなにげに、一時間前まではその一人だったわけだけど。 麻衣 RUNの学生が明るいわけが分かりました。 純一 いいや。まだ分かってないよ。 美里 ええっ? 純一 クール、ホットなんて、RUNで教えることに比べれば、千分の一の小手先の知識に過ぎない。僕は内定なんて興味はないんだ。最低、「同期トップ」になってもらわなきゃ困る、そういう気持ちで教えているんだ。 君たちは素直だけど、まだ学び始めたばかりだ。これで受かるなんて考えるのは甘いよ。 麻衣 すみません、調子に乗ってしまいました。 美里 でもさ、あたしたちがどうしてこんな単純なことに気付けないかってコトは、フツーに興味出てこない?絵里なんて、今は元気だけど、あのコ、感情の浮き沈み激しいし…。 亘 オレの友達にも、今日の話を聞かせたかったよ。フツーに合説よりも役に立ったし。 純一 じゃあ、次回は、君たちがどうして画一的な考え方をするのか、教えてあげよう。まぁ、その前に就職課にでも行って、職員と色々話してくるといいよ。質問の練習にもなる。 (第9話、終わり) 三人の就活は、これからどんな展開を迎えるのか? 就活戯曲「夢への内定」、続きは… 戯曲・小説掲載用の新ブログ 『ドラマweb大学~7限目の授業~』 でどうぞ。 《読者・訪問者の皆様へ》 いつもブログ『職の精神史』をご愛読いただき、ありがとうございます。 ★「戯曲」、「小説」など、私の個人的・趣味的作品につきましては、読みやすさや使い勝手の良さを考えた結果、今後は新作も含めて、mai placeで管理する『ドラマweb大学~7限目の授業~』のブログに掲載してもらうことにします。 ★『職の精神史』は今後も平常通り続け、戯曲や小説の新作を執筆した時は、簡単なお知らせを掲載します。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.23 03:28:08
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