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カテゴリ:短歌/俳句/小説/戯曲
麻衣 顧問の人も、「内定のために来られちゃ迷惑だ」って言ってました。 亘 ってことは…。 麻衣 純粋に勉強するサークルってことでしょう?私も美里も今度行くから、先輩も一緒に行きましょうよ。 亘 おまえがそこまで言うなら、よし…一回だけだぞ。一回だけ行ってやる。行って満足できなかったら、今度パフェおごってくれよ。 麻衣 はい。パフェでもコーヒーゼリーでも、何でもごちそうします。 亘 最近、世の中が敵ばかりに見えるオレには、おまえのような優しい奴は珍しいね。こんなオレの世話してて、いつか後悔したなんて言うなよ? 麻衣 じゃあ、今度の土曜に、赤坂市民センターで。 亘 おい、後悔…。 (プー、プー) (亘、回想) ふん、何がサークルだ。 あんなに真面目に頑張って、三十社も落ちたオレの気持ちが、誰に分かるってんだ。 くそっ…(亘、涙を流す) オレは進学校の筑前館高校を卒業したエリートだ。筑前大学には落ちたけど、九州学院では成績が悪かったわけでもない。 オレは就職で、この差を挽回するはずだった。なのに…。 日経も読んだ。四季報も読んだ。志望順位が五位以内の会社は、財務データだってきっちり覚えた。オレの予定では、オレは今頃、三井商事に内定していたはずなのに…。 それが、無名の双丸にまで落とされるなんて…。 オレは自己分析を徹底的にやり直した。筆記試験だって、元から完璧に近かったけど、それでもさらにやった。時事用語集だって、真っ赤になるほど繰り返した。 友達や、特に麻衣や美里たち後輩の前では、「就活なんて気にならない」って強がってるけど、正直、もう限界だ。 ああ、オレはこのまま行けば、「フリーター」なのか?そんなこと、絶対に許せない。…だけど、バイトもせずに卒業後もこのままだと、「ニート」ってことか?まさか…。 筑前館出身のオレも落ちたもんだ。最近、内定した奴らがミョーにムカついてたまらない。 あいつらのうち、一体、オレ以上の努力をした奴が、どれだけいるっていうんだ? オレより頭がいい奴が、どれだけいるっていうんだ? オレより早くから商社を目指していた奴が、どれだけいるっていうんだ?九州学院ごときに。 もしかして、オレは就活以前に、大学入試で既に失敗していたのかもしれない…。 仕事なんて、所詮は会社の命令を聞いて、カネもらうだけだ。なら、有名大企業に限る。世の中、結局ブランドなんだ。 オレはドライに割り切った。志望動機だって完璧に覚えた。一分、三分、五分の自己PRをオレほど完璧に言える奴は、そうはいない。 SPIの点数がオレよりいい奴も、オレより早く解ける奴も、そうはいない。 面接の質問を想定して、オレほど回答を練習した奴も、そうはいない。 なのに、なぜ…。(亘、枕に顔をうずめる) 世の中、間違ってやがる! (夜が明け、日が経ち、土曜を迎える) 麻衣 先輩! 美里 来てくれたんですね。麻衣が「もし来なかったらどうしよう」って言ってたんですよ。 亘 何言ってんだ、ちゃんと準備して待ってたんだって。ま、今日一回限りだけどな。 麻衣 よかった、来てくれて。 美里 先輩も絶対感動しますよ、あの人の話。 亘 五十社以上の説明会に行ってきたオレだぞ?そう簡単に感動するかって。 麻衣 とにかく、あと十分だから赤坂市民センターに行きましょ。 美里 そうそう、あっちあっち。 (三人、市民センターに向かう) 純一 おはよう。(学生たちとあいさつをかわす) 麻衣、美里 おはようございます! 純一 おう、君たちか。おはよう。今日はよろしく。 亘 おはようございます…。 純一 おはよう!よろしく。 司会 では、今から第三九〇回目のRUNゼミを始めます。よろしくお願いします! (麻衣、美里 三九〇回?すごい活気…。) 司会 じゃあ、今日の講義は「職業観とは何か」。純一さん、お願いします。 (純一、登壇) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.23 03:53:06
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