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カテゴリ:短歌/俳句/小説/戯曲
◆第1話「モラトリアム終了」 大学三年の夏休みは、それまで過ごしてきた夏休みとは終わり方が違う。 それは、ここで終わるのが、夏休みだけじゃないから。 本当に終わるのは、「世の中の現実」を考えなくても過ごせた日々。 ああ、ついにやって来た。 就職活動――。 舞台は九州学院大学。授業が終わり、学生たちが帰った後の教室から、物語は始まる。 美里 よっ!麻衣。久しぶり。どうだった、夏休み? 麻衣 ああ、美里。そうだね、楽しかったよ。短期留学にも行ったし。 美里 そうだったね。その話、今度ゆっくり聞かせてよ。で、あんた、今日行くの? 麻衣 行くって、どこに? 美里 どこって、説明会よ。就職課が夕方からやる、三年生向けの就職説明会。 麻衣 …別に、予定は入れてなかったけど。美里は行くの? 美里 もちろんじゃない。あたし、就職がすっごく楽しみなんだ。納得いく内定のためには、一足早くスタートダッシュかけなきゃ。あんたも行こうよ。 麻衣 そうね。じゃあ、一緒に行こう。 美里 じゃあ、四時に自販機前で! 《麻衣の回想》 就活か…とうとうそんな時期になったんだ。 私はまだ、業界とか仕事のことは何も知らないけど、美里のような友達がいれば、頑張っていけそう。 どうせ考えなきゃいけないことだし、今日は何かいい情報があったらいいな。 (説明会場付近。学生たちが集まってくる) 絵里 よっ! 麻衣 …なんだ、絵里か。 絵里 あんたも来てたんだ。 麻衣 美里に教えてもらったの。 絵里 あんた、志望業界決まってんの? 麻衣 いや、まだ…。 絵里 あたしは絶対、JTBかCAって決めてるんだ。 麻衣 すごいね、もう決めてるなんて。 絵里 夏休みはネイル講座もマナー講座も受けたし、絶対受かってやるんだから。 麻衣 へぇ。 絵里 …ほら、そろそろ始まるよ。 (ステージに就職課職員が登壇。説明会が始まる) 駒田 三年生の諸君。早速あいさつといきたいところだが、まず諸君に言いたいことは、毎年同じことだ。 「今すぐ夏休み気分を捨てろ!」。 (学生たち、ざわめく。) …君たちは就活をよほど甘く見ているようだな。顔を見ていれば、君たちの甘さがよく分かる。 麻衣 誰なの、あの人? 美里 就職課の駒田って課長よ。先輩が「あいつの話で毎年みんな、暗くなる」って言ってたけど、ホントにイヤな話し方ね。 駒田 君たちは九州学院の学生ということで、九州や博多では、そこそこ知られているかもしれん。 だがな、それは所詮このド田舎、九州での話だ。君たちの学校など、東京に行けば誰も知らんぞ。私は長年東京に滞在して、それを肌で感じてきた。 絵里 バッカじゃないの!あんたみたいなのが駐在してるからじゃない。余計な話はさっさとやめて、早くJTBの話をしてよ。 駒田 就職では、君たちの総合力が問われる。 マナー、外見、あいさつ、仕草はもとより、時事関連知識、筆記試験、自己管理能力、面接でのアピール力、コミュニケーションのセンス、文章力、語学力、専攻科目に対する理解力…。 駒田 君たちに聞きたい。この中で、日経を読んでいる学生は何人いる? (ポツポツと手が挙がる) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.06.23 04:19:34
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