職の精神史

就活ポエム（2007年夏作成）



「疲れること」

もしこれをやって
失敗したらどうしよう
うまくいかなかったら
損するだけじゃないのかな

でも何かに熱中したいし
熱中せずに様子も見たい

そんな日々を繰り返して
ようやく分かったのは
中途半端って
本気より
もっと疲れるってこと



「特別」

私は特別な学生です
珍しいバイトも
波瀾万丈の恋愛も
入るのが難しいゼミも
人気のサークルも
かっこいい留学も
全部やりました

そう言い続けて
不採用通知の山ができた

悔しさの中で
誰を特別にするかを知った

この商品はお客様を幸せにします
赤字も私がいれば大丈夫です
知名度は私が高めます
だって御社は私にとって
特別な会社です

そう考えてそう伝えると
しばらくして内定通知が来た



「立場」

資本金
売上高
順位
株主構成
地名度
ＣＭ

全部
過去のことばかり

自分が社長なら
こんなラベルばかりで
選ばれちゃ
たまったもんじゃないな



「未熟な社会人」

おお君は学生か
社会は厳しくて
社会人は大変だぞ

学生時代は
今しか遊べない
貴重な時間だ

だからしっかり
遊んでおけよ

おれも毎週残業ばかりで
君たちがうらやましいよ

でもまあ社会人だからな
はっはっはっ

この人は
学生時代に遊んだから
社会で遊べなくなったことに
気付いているんだろうか

学生時代に気付けば
幸せだけど

社会人になって気付けば
不幸だろうな



「恋と愛」

君は理想の人だから
君のすべてが欲しい
ずっと見つめあいたい

それも悪くないけど

君は一緒に理想を描ける人だから
僕の全てを捧げたい
同じ未来を見て歩きたい

って言われた方が幸せ

だって
与えられたら
与えたくなるから

これって
きっと就活でも
同じかもしれない



「リーダー」

なんだこの会社は
おれ以外
できるやつはいないのか

まったくどいつもこいつも
使えないやつばかり

ほらどけ
おれがやるから

おい見とけ
こうやるんだ

ほんと
おれ以外
使える人間がいなくて
仕方ないな

こんなリーダーは
確かに能力はある
いろんなことができる

でもリーダーの仕事は
関わる人の力を引き出すこと
自分より優れた人を育てること

だったら

自分が一番できると
思っているリーダーは

実は一番
できない人なんじゃないかな



「合同説明会」

御社は業界で何番ですか
御社の資本金はいくらですか
御社の売上高はいくらですか

休みは何日ありますか
研修で留学に行けますか
ボーナスは何ヶ月分ですか
何の手当てが付きますか

そうやって情報収集を
すればするほど
行きたい会社が減っていった

だから
いつも楽しそうな友達が
どう情報収集してるか
ちょっと聞いてみた

一番になるために何をしますか
資本金はどう投資しましたか
利益は何に生かしますか

できる人の休み方はどうですか
研修で社員をどう育てていますか
稼いでいる人はどう考えていますか
手当てを出したい人はどんな人ですか

って聞いていた

おれとはまるで
発想の前提が違っていた

情報収集しさえすればいいと
思いつくままに
質問していたおれが

答えを聞くほど暗くなったのは
当たり前のことだった



「だんごむし」

ちょっと刺激があると
だんごになって
ごろごろ
ごろごろ

また歩き始めた時
自分が今どこにいるのか
今どこに向かっているのか
分からない



「てんとうむし」

高ければいいと
一番高いところにばかり
登りたがる
てんとうむし

高い木から落っこちて
低い木に移ったら
また高い枝に登り始めた

自分では
一番高いところにいると
満足してるけど

木そのものが
低くなったことには
気付いていないようだ



「低さ」

気圧の低い場所に
空気が集まって
台風になる

水位の低い場所に
水が集まって
渦巻きになる

腰が低い人に
情報が集まって
リーダーになる



「エントリー」

最低100社は
エントリーしろよ

そう言われて
とりあえずやってみた

ほどなく
すごい量の資料が
送られてきた

エントリーシートが多すぎて
たくさんの会社を見送った

こんなたくさん書けるはずがない
こんなたくさん読めるはずがない
こんなたくさん受けるはずがない
こんなたくさん行けるはずがない

まったく
企業ってのは無遠慮なところだ

人の都合ってものを
全然分かっちゃいない

でもよく考えてみたら
これって全部
自分がエントリーした
会社たちじゃないか



「就活」

秋になったら
エントリーしましょ
冬になったら
履歴書書きましょ

年が明けたら
合説に行きましょ
合説に行ったら
書類出しましょ

書類が通ったら
筆記受けましょ
筆記が通ったら
面接受けましょ

内定もらったら
そこに行きましょ

これが就活ですよ
どうです簡単でしょ
対策はばっちりだから
心配は無用です

でもこれって
全部ただの手続きじゃないか

大人はそれを
対策って言うけど
ただの情報の
交通整理じゃないか

私が聞きたいのは
そんな手続きじゃない

心から燃え
深く感動し
我を忘れるほど熱中して
信じられないほど成長する
活動のことが聞きたい

本質を忘れた丁寧さなんて
ただの余計なお世話かも



「短所」

においも分からず
道具も作れず
空も飛べない
桃太郎

だから
犬と猿とキジに
素直にお願いして
みんなの長所を
全部手に入れた

短所は力を集め
短所の持ち主は万能になる
そう考えてみると
短所ほど役立つ長所はない



「長所」

人の世話にはならない
全部自分でやりたい
頼るのは恥ずかしい

そう考えて生きていたら
人の出番を奪ってしまって
いつも忙しくなってしまった

そう考えてみると
長所ほど怖い短所はない



「小と大」

小さな柔道選手が
大きな相手を
すごい勢いで
投げ飛ばす

すごい力ですねって
聞いてみたら

いやいやあれは
相手が大きくて
動きが速いから

私はその力を
使わせてもらっただけです

相手のおかげさまで
私は何もしてませんよ

って笑ってた

面接もきっと
これと同じに違いない



「行き違い」

少子高齢化社会だから
御社の介護ビジネスは伸びます

IT化社会だから
御社のソフト開発事業は伸びます

21世紀は環境が重視されるから
御社のエコビジネスは伸びます

そんな自己PRで
行くとこ行くとこ
不採用

悔しくて原因を考えてみたら
企業の努力には一言も触れず
マスコミの受け売りばかりしてた

確かに

難関企業に内定したのに
今年は大量採用だから
就職も簡単だねって言われたら
私も嫌な気分になるはず

景気が良くても
潰れる会社はあるし
景気が悪くても
伸びる会社もある

成長は環境じゃなく
努力が決めるのに

周辺事情ばかり語ってちゃ
不採用になるのも当たり前

私はわざわざ落ちに行ってたんだ



「空腹感」

ある映画のオーディションで
主演の座をかけた審査があった

「ラーメンをおいしそうに食べた方を
この作品の主演に抜擢しよう」

一人は食べ方を工夫し
使えるテクニックは
全て使った

もう一人は撮影の日まで
何も食べなかった

勝ったのは
おなかをすかせた方だった

私は私の未来に
どれくらい腹ぺこかな

ホントはおいしくないのに
おいしそうに見せようとして

目先のテクニックに
逃げていないかな



「幸せ」

未来に迷って
ある日ある大人に
生き方を聞いてみた

「やりたいことやって死ねれば
それが一番幸せだよ」

だけど
そう答える顔は
とても幸せそうには
見えなかった

私のやりたいことだけやっても
私しか嬉しくない

私しか嬉しくないことを
果たして幸せと呼べるのか

私は自分の夢ばかり追うような
貧しく寂しい生き方はしたくない

幸せや喜びも
もらうものだと考えていた頃は
毎日不幸だったけど

あげるものだと考え始めてからは
毎日が楽しく幸せになった




「新しいことと古い自分」

新しいことに価値があるんだと
いつも流行ばかり追い求めて
服、お菓子、レジャー施設
全部試してみた

新しい習い事に価値があるんだと
いつも新展開に希望を託して
ジム、英会話、パソコン
全部試してみた

何か始めると
すぐ投げ出して

次にまた新しいことをやれば
自分も変わると考えて

そんな繰り返しで
もう三年過ぎ去った

いつも新しいことに期待して
そうして決まって投げ出して
最後は昔に逆戻り

新しいことをやるよりも
自分を新しくした方がいい

こんな単純なことに
どうして
気が付かなかったんだろう



「古いことこそ新しい」

二千年前の本が
今も役立つかと思えば
去年の本が
もう使えない

二千年前の言葉に
励まされたかと思えば
先月聞いた言葉が
もう怪しい

新しいとは
生まれた時期によらず
いついつまでも通用することで

古いとは
生まれた時期が新しくても
すぐに使えなくなってしまうこと

新しさと古さは
こうして
生まれた時じゃなく
結果から見極めないと

とんでもない過ちを
引き起こしてしまう

ところで今
大学で学んでいる
最新の知識とやらは
どうなのかな




「自己分析」

小学校の思い出
中学校の勉強
高校時代の経験

思いつくままに
書き出してみた

ノートはどんどん埋まって
頑張っている気分にはなれた

だけど
書けば書くほど
気分は暗くなっていった

自己分析しなきゃ
始まらない
自己分析が
一番大事

そう言われてやったのに
どうして夢がなくなるんだろう

用意された問いに従って
テストみたいに
思い出を当てはめても

元気になれるはずがない

だって
本当の自己分析は
答えじゃなく
問いを探すことだから



「本当の自分」

うまくいかなくて
引きこもり
都合が悪いことがあると
言い訳
期待に合わないと
気分転換

そうやっていつも

これは本当の自分じゃない
本当の自分は
きっと未来のどこかで
待っているんだと

逃げ回ってきた

迎えた未来で遭遇したのは
昔と変わらない自分

今やっと気付いた

逃げ回って
先延ばしにして
言い訳して
気分転換して
今作り笑いしてるのが

本当の自分だってことに

よし
じゃあ
ここから始めよう



「ギャップ」

理想に合わせて
現実を引き上げるか

それとも

現実に合わせて
理想を引き下げるか

いろいろ考えてみた

そうしてる間は
理想も叶わなかったし
現実も進まなかった

多くの人は
理想と現実には
ギャップがあると
言うけれど

そんなのは
当たり前じゃないのか

大事なのは

ギャップで理想と現実を隔てるのか
ギャップで理想と現実をつなぐのか

そのどっちの態度で生きているか

つなぐものだと
考えてからは
ギャップも
大事な夢の
一部になった



共感した方は、来週のイベントに行ってみるといいだろう。