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カテゴリ:想像の小箱(「十二」?)
「優雅な舞(その3)」
赤楽二百一年正月十五日。金波宮では上元の式典が催されていた。昨年の赤楽二百年の時に大々的に催されるはずが隣国の雁が斃れた余波で自粛気味だった分、今年はホンの少しだけだが派手になっているような気がする。昨年はいなかった来賓も来ているし、顔の見えなかった遣士たちの姿もある。それだけでも慶が栄えている証であり、官も民もこのことを実感したいのであろう。だからこの日ばかりは景王も大人しい。姿もいつもの官服から襦裙に着替え、女官たちの年に一度の楽しみを満喫させるために着せ替え人形と化している。その姿を貴賓席から見た宗王・秀絡は思わず隣に座る高麟と見比べてしまった。外見を繕い、覇気を抑えていると瓜二つである。高麟の方がまだあどけなさが残る感じだという違いはあるものの、別々に会ったなら間違いなく混同してしまうだろう。夕べ自分で言っておきながらこれほどまでとはと、秀絡は驚いたし、秀絡以外の列席者たちも同じような感想を抱いたようだった。景王は大人しくしているだけだが、高麟の方は景王の姿を見て頬を紅潮させ、眼を輝かせて、今にも飛び出しそうである。その気配を察した高王・楽俊は静かに高麟を嗜める。 「間違っても式典の間に奇声を上げたり、飛び跳ねたり、景王に飛びついたりはしないようにな」 「ひ、酷い!そんな風に見えますの?」 「見えなければ言うはずがないだろう?今にも転変して景王の前に侍りたいって顔をしているぞ」 「そ、それは… だって、あんなに素敵なんですもの。主上とはまた違う輝きが見えます。眩しいんですが、眼を離したくない…」 「おやおや、困った姫様だ。でも、隣を見てご覧。緋翠と同じ顔をしてるのがいるから」 「え?」 「楽俊さん、そんな顔をしていますか?」 「緋翠と同じ顔に私には見えるがな。景王に魂を抜かれたように呆けているぞ。秀絡も外見で人を見るのか?」 「今は否定できませんね。でも、楽俊さんみたいに冷静でいられるほうがおかしい気がしますよ」 「そうか?他の連中は景王よりも緋翠に見惚れているように見えるがな」 「ええ??」 「そりゃそうですよ。お二人が並んだらこの上ない一対になるかもしれませんね。この場にいるものたちには眼福でしょうね」 「そういうものか?」 「やっぱり楽俊さんはおかしいですよ。美しいものを美しいと感じる気持ちが欠落してるんじゃないですか?」 「どんなに美しいものでも心を奪われてばかりでは自分のいる意味がなくなるだろう?美しいものに負けぬ気持ちを持つだけだ。そういうものでなければ美しいものとともにいることは許されないだろう?違うか?」 「なるほど、確かにそうですね。美しいものに魂消ているだけではともにあることは許されませんね。精進します」 「無理するな。王を五十年もやっていれば自然に身につく。身につかねば滅びるだけだがな」 「相変わらず厳しいお人だ」 「ん?」 「どうしました?」 「何かあったようだな」 楽俊は居並ぶ諸官のもとに下官が走りよって何か耳打ちするのを横目に見ていた。秀絡もそれに倣った。皆の注目を集めないよう、さりげなく様子を窺うのは見に染み付いた習慣である。下官が耳打ちをしたのは天官長・蘭桂であった。ホンの僅か蘭桂の眼が泳いだ。蘭桂はさりげなく隣に座る冢宰の夕暉に耳打ちし、夕暉はその隣の景王に小声で何かを伝えている。景王は表情を動かさずに頷いた。 「式典が終わるまでは動くな。動いても意味がないからな。終わり次第遣士らを蘭邸に集合させよ」 「はい」 「あそこでこちらを伺っている二人にもこれが終わり次第知らせよ。台輔のいないところでな」 「はい」 「景麒、すまぬが、今宵の宴席はなしになりそうだ。高麟の相手をしてやってくれないか?」 「かしこまりました」 景王は視線すら動かさずに命を下していく。報告を受けた時点で景王の前に控えていたものに不安を与えないよう満面の笑顔を見せる。その様子を見ていた通司・緋媛は隣に座る良人で修司の玖嗄に耳打ちする。 「天官が父上に何か耳打ちした。おそらくは悟桐宮のものだろう。つまり、鳳が啼いた」 「戴か?」 「おそらくはな。…智照さん」 「ああ、式典が終わったら集合だろうな。皆それくらいは心得ているだろう」 目聡いものたちは瞬時に理解し、なすべきことを心得ていた。景王がすぐに動かないのは民に動揺を与えないためだろう。だから、彼らもまた景王に倣い、密かに傍に感じさせないように留意していた。のろのろと時が過ぎて式典が終わり、優雅な仕草で景王が退席し、諸官も何事もなかったように散会していく。高王たちが掌客殿に戻ると仁重殿の女官が来ていた。 「台輔より高台輔に午後のお茶のお誘いでございます。昨晩ご挨拶が出来なかったので是非にと」 「ええ、でも…」 「緋翠、行って来なさい。麒麟同士でイロイロ話をするのもいいことだろう?少麓、昭媛、緋翠についていってくれ」 「はい」 高麟はもの言いたげであったが、少麓や昭媛に付き添われて出て行った。それを見送ってから楽俊はそそくさと服を着替える。秀絡もこれに倣う。 「慶は手回しにそつがないですね」 「戴が斃れたのだろう。だから、緋翠を連れ出した。おそらくは蘭邸に集まっていよう。行くか?」 「もちろん」 二人が着替え終わった頃、緋媛がやってきた。拱手した後口上を述べる。 「高王君、宗王君、先ほど鳳が泰王崩御と啼きました。我らはこれより蘭邸にて会議を開きますが?」 「出ても構わぬのだろう?」 「はい」 「では、いこうか」 楽俊と秀絡が蘭邸の花庁に入って行くとすでに金波宮の首脳は集結していた。一同はさっと立って拱手する。楽俊も返礼する。楽俊は景王の指し示したようにその隣の席に座り、秀絡は楽俊の隣に座る。一同に茶が配られたところで景王が口を切る。 「先ほど悟桐宮から鳳が『泰王崩御』と啼いたと知らせが来た。詳細については速くても明後日にならねば分からぬが、当面の対応について皆の意見を聞きたい。高王、宗王も忌憚ない意見をお願いする。最初に累燦」 「戴は遣士の翔岳が昨年客死し、その後のことについて検討しておりましたが、泰台輔の失道の噂もなく、本日鳳が啼くことは予期せざることであり、何らかの事故、事件が発生したものと思われます。場合によっては、遣士代行である翠蘭や陵崖、香萠らも巻き込まれている危険性も否定できませんので、この後すぐに関弓に戻り、鴻基に彩香を派遣し、詳細の調査に当たらせるようにしたいと思います。もし、彼らが無事であれば私が関弓に戻る頃には第一報が届いていると思います」 「うむ。寝耳に水だったからな。鴻基からの連絡が途絶する危険性も否めないな。智照、どうだ?」 「累燦の申す通りでとりあえずはよろしいかと。私も累燦とともに一旦関弓に赴き、詳細を確認した後諸国に指示を出そうと思います。各国の遣士は早急に任地に戻り、その後の指示を待ってもらいたい。四日後には金波宮に報告できるよう尽力します」 「妥当なところだな。智照が関弓に一旦留まるのならその旨は芝草に流して置くように」 「わかりました」 「緋媛、こちらから直接鴻基に向かうのは危険なのだな?」 「はい。昨年翠蘭から報告がありましたように、垂州までの海域に妖魔の巣があるもようで、近づくのは得策ではありません。関弓経由で向かうのが安全であると思います。時間的にも片道で半日です。連絡員の命には見合いません」 「急を要するわけでもない、ということだな。危ういというと範か?朱楓?」 「今すぐにと言うわけではないと思います。玉の供給源の戴が斃れたのは打撃ですが、当面は在庫もありますので」 「玉も王が斃れたらすぐになくなるものでもないしな。影響が出るとすると来年か?」 「おそらくはそれくらいかと。ただ、民の心理面では多少速く影響が出るかもしれません」 「どこにも必要以上に悲観するものがいるからな。だからと言ってそれを否定も出来ないが。他には?」 「いいかな?」 「楽俊、漏れがあるか?」 「いや、詳細については遣士および諸国の王か冢宰などに限られるのだろう?もちろん内容によっては広く出来ようが」 「それはそうだ。それについては各国の王や冢宰の判断に委ねたい。こちらから広めることはするつもりはない。内政干渉だろう?」 「要するに遣士の窓口となっているところで判断するということだな。だが、内容によっては遣士止まりのほうが良いこともある。あの一件のようにな。それについては遣士の判断か?」 「あの時は楽俊と協議したな。あまりにもあまりな内容だっただけに延王と氾王以外にはそれなりのことしか伝えなかった。そういうことが今回もあるかもしれないというのか?」 「あまりに唐突だからな。表向き伝えるべきこととそうでないことの判断は… 智照なら大丈夫か?」 「きわどいことについては金波宮の判断を仰ごうと思っています。そうでないときは私の判断で」 「蘭桂、念のため、関弓に行ってくれ。おそらく範にはそのままのことを伝えても大丈夫だとは思うが…」 「途中の国ですね。でも聡い人ですから。ですよね?楽俊さん」 「何か知っているものを行かせるとすべて吐かされるだろうな。知らないものなら大丈夫だとは思うが… 今回は仕方ないか?あそこを通らずに範には行けないからな。それほど弱い人でもないから、そこに賭けるしかないな」 「それもまた運命ということか?」 「我々にどうこうできるものではないということだろうな。なるようになると思うしかなかろう」 「他にはあるか?なければ散会にしよう。ああ、楽俊と秀絡は残ってくれ。他に残れるものはそのまま」 「蘭邸を楽しんでもらうというわけですか?」 「急ぎのものには申し訳ないがな。夕べからねだられているのでな。許せ」 遣士たちと蘭桂、緋媛らは急ぎ足で花庁から出ていき、三人の王以外では遠甫と夕暉が残った。頃合を見たのか、鈴が酒肴を持ってくる。景王は酒盃を掲げ、乾杯を促す。 「思わぬことで楽しむこともママならぬが、気分だけでも味わって欲しい。楽俊、懐かしいだろう?」 「ええ、会議の雰囲気も変わっていない。どちらかといえばこういう感じのほうがいいのですがね」 「それはそうだ。難しい話のときは茶しか出せない。これも楽俊が決めたことだろう?」 「私がですか?さて?夕暉、そうだったか?」 「さぁ?いつの間にかそうなっていましたからね。酒に飲まれるようなのはいませんでしたが」 「私以外はだろう?酒も過ぎると眠くなるからな。判断を誤りかねない」 「ではやはり楽俊のせいだろう?その分速く終わらせようと皆真剣に話し合うがな」 「では問題ないのではないですか?」 「問題だとは誰も言っていない。そういう決まりだとしか言っていないぞ」 「ああ、酒が入るとこうだ。つい甘くなる」 「まぁ、こういう時くらいはいいではないか」 景王は苦笑した。寂しげな笑いが失ったものを思い出させていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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