カテゴリ:本の感想(あ行の作家)
岩井志麻子『ぼっけえ、きょうてえ』 ~角川書店~ (「のぽねこミステリ館」フリーページより再録) 「ぼっけえ、きょうてえ」女郎が、客の男に話をする。妾の身の上話を聞きたいじゃて? きょうてえきょうてえ夢を見りゃあせんじゃろうか。 うちのおっ母は間引き専業の産婆じゃったんよ。妾は4歳の頃からその手伝いをしとった・・・。 「密告函」コレラが蔓延した町-もともと好かれていなかった町役場の助役が、病気にかかる。 その様子はまるでコレラ病患者のようだった。そして彼は死ぬ直前に、コレラの疑いのある者を匿名で密告させるという「密告函」の設置を訴えた。若い弘三が、函をあらため、またそこに名を書かれた者のところを訪れるという嫌な役目を担うことになる。気丈な妻に支えられていた弘三だったが・・・。 「あまぞわい」岡山市で酌婦として働いていたユミは、島から訪れる客に選ばれ、また心惹かれていき、結婚して島へと渡った。しかし、半年ほどで夫から殴られるようになる。島の女たちや男たち、さらには夫の親族にまで疎まれていた。 「依って件の如し」村人に嫌われていた女の子供-利吉とシズは、まるで牛と同じように扱われていた。二人に優しく声をかけてくれるのは、竹爺と竹婆くらいだった。利吉が志願兵として中国に発ってからは、シズは彼女を嫌う人の元へ住み込みで働きに行く。ただ、彼女は牛小屋に住まわされた。 岡山弁で描かれた文章。私は岡山出身なのでさらさらと読めたが、岡山弁になじみのない人が読むとどうなのだろう。 ただ、「こわい」という独特の雰囲気は伝わることだろう。 帯にはものすごく怖いという風に絶賛されているが、私はそれほどに怖いとは感じなかった。 ただ、その雰囲気はいい。 (岡山弁で描かれとる。私は岡山出身じゃけんすらすら読めたけど、岡山弁になじみのねー人が読んだらどうなんじゃろう。 こえーという雰囲気は伝わるじゃろう。帯にはでーれーこえーと絶賛されとるけど、私はそがんにこえーとは感じんかった) *注:本書では「きょうてえ」が「怖い」の意味で使われていますが、私のまわりでは、特に同世代は「きょうてえ」なんて言いませんので、「こえー」と書きました。aiの音が、eeになまるのです。例。「でえこてえてえて」(大根=でえこ、炊いといて=てえてえて)まず言わないでしょうけどね。あら、oiの音もeeになってますね。さらに例。「誰なら?」(ああ、この時点で方言かも。誰だ?です)は、「でえなあ」になりますし。 本書を読んだのは高校生の頃だったでしょうか。全く覚えていないので、表題作をぱらぱら読んでみたのですが、あら、面白そう。表題作だけでも読み返してみようかな。 (*訂正*大学生の頃の読了記録を見ていたら、どうも大学二年生の頃に読んだようです。高校生の頃ではありませんでした) なにってかにって岡山弁です。18年間聞き続け、しゃべり続けた岡山弁です。それから仙台に行ったので、毎日のように岡山弁にふれることはなくなりましたが、岡山に帰ってくるたびやっぱり自分は岡山県民だ、と認識する岡山弁です。 本書では、「おえん」とか普通に使われていますね。岡山県民以外が読んで分かるのでしょうか??(中国地方の方は案外分かるのかも知れませんが)これは、「いけない、だめだ」という意味です。「あ~、もうおえんわ!ええとこまで行っとったのになぁ!」みたいな。 仙台の同期は-他にも、私と接した方々は-私の岡山弁に困っていました。 県外の大学に行った高校の友人たちがほぼ全員経験した体験を紹介しましょう。 例) A「島田荘司さんって、御手洗潔シリーズで有名だよね」 B「じゃなぁ。ああ、でも、吉敷竹史シリーズがあるが」 Bさんが岡山弁ですね。Bさんの中ではこれで完結しているのですが、Aさんは、言葉の続きを待つのだそうです。「~シリーズがあるが、しかし~」と、「が、しかし~」の部分はなんなんだ!?と思うのだそうです。でも、この「が」は逆接の助詞ではないのです。「吉敷シリーズもあるじゃない?」というニュアンスなのです。繰り返しますが、県外に出た友人はたいていこの「が」をめぐる他都道府県の方とのエピソードを語っていました。岡山県民にとっては標準語ですから、まさかこの助詞が方言だとは思ってもいなかったのです。「おえん」とか、「~じゃろ?」とか、「はようしねぇ」(早く死ね、ではありません。早くしなさい、という意味です)とかは、岡山弁だと認識していましたし、岡山弁はきれいな響きじゃないなぁ、と感じるところなのですが。ともあれ、本当に、県外に出て世界が広がりました。東北弁にもふれることができましたし☆ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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