Michel Pastoureau, Les couleurs de nos souvenirs
Michel Pastoureau, Les couleurs de nos souvenirs, Paris, Éditions du Seuil, 2010(英訳:Michel Pastoureau (trans. by Janet Lloyd), The Colours of Our Memories, Cambridge-Malden, Polity Press, 2022) 本ブログで何度も紹介している、主に西欧中世の紋章・動物・色彩の歴史の研究で有名なミシェル・パストゥロー(1947.6.17-)による、自伝的エッセイで、メディシス賞随筆部門受賞作です(ただしパストゥローは、本書の目的は社会や日常生活との関係の中で色について語ることであり、自伝は間接的であると、Michel Pastoureau avec Laurent Lemire, L’imaginaire es tune réalité, Paris, Éditions du Seuil, 2025, p. 183で述べています。本書でも、「部分的に自伝的である本書は、人文学にのみ関わっている」との記述があります。原著p. 10, 英訳版p. XII)。 本書の構成は次のとおりです(仏語版の構成。拙訳)。―――備忘録としての色1.衣服2.日常生活3.絵画と文学4.スポーツの領域で5.神話と象徴6.好みと色彩7.ことば色とは何か文献案内索引本書を理解するための年表目次謝辞著者について[英訳版なし]――― 原初版も買いましたが、基本英訳版で読みましたので、以下は英訳版をもとにメモ(書影は英訳)。 序文にあたる部分では、アンドレが自身のセカンドネームとの記述がありました。Michel André Pastoureuですね。 第1章(仏語版には章番号なし。英訳版によります)は、シュルレアリストであった父アンリ・パストゥローと交流のあったアンドレ・ブルトンの思い出から始まり(彼の印象は「黄色」とのこと)、『悪魔の布』で論じた縞模様について、色のニュアンスに気付くこととなった13歳の頃の「ブレザー事件」、ジーンズについて、35歳ころから自身が太り始めたことと関連してラージサイズの服について、そしてロンドンで見た「地下鉄展」で、60-70年間にわたり人々の衣服の色に大きな変化が見られないことに気付いたことなどを語ります。 第2章で、は母のつとめていた薬局のことから、薬局の中では色が重要な役割を果たしていたこと、スイス旅行で金持ちのクラスメートにあった事件、車と乗っている人のイメージについて、1981年の共産圏への旅とそこでの灰色の印象、信号について、食事について(青い食べ物はない!)などが取り上げられます。 第3章。母方のおじ3人が画家ということもあり(先にふれましたが父もシュルレアリスト)、小さい頃から色に囲まれていたパストゥローは、色の分類が楽しかったといいます。1500冊の父の蔵書の中で、『フランス絵画史』に興味があったこと、カラー映画の始まりや、映画アイヴァンホーがお気に入りだったことなどに次いで、映画製作にかかわった思い出が語られます。1979年「ペルスヴァル」では、衣服や紋章の色について助言を求められたものの、自身の意見が取り入れられなかったといいます。1984-1985年「薔薇の名前」では、紋章や修道服の色を担当しますが、舞台である14世紀には豚がピンクや白ではなく黒や灰色だったと伝え忘れていて、撮影中に急遽黒のスプレーで対応したというエピソードが語られます。その他、父と交流のあったダリについて、好みの画家であるフェルメールについてなど。 第4章はスポーツについて。自身がサッカーチームに所属しゴールキーパーをしていたこと、自転車を買いに行ったときに黄色だったから買わなかった思い出からツール・ド・フランスの色についてなど語ったのち、スポーツは色の歴史の特権的な場であるとして、その重要性を強調します。 第5章は、赤ずきんについて、紋章への関心に次いで、緑、旗、チェスなどを取り上げます。個々の話題は興味深いですが、メモは題材の列挙だけになってしまいました。 第6章はアメリカ土産の思い出、自身はアクセサリをつけないこと(腕時計さえも!)、金の歴史、軍役の際に赤がはっきり見えるかテストを受けたこと、紫は子どもたちに人気のない色であること、現代で人気の色について(パストゥロー自身はエコとは関係なく緑が好みだそうです)などを語ります。 第7章は語彙の重要性について論じます。たとえば、史料上「赤いドレス」とあっても、赤いベルトをつけた白いドレスである事例などを紹介し、歴史学者たちは慎重になるべきだといいます。また、古代ギリシャやローマに「青」の語彙がないことを指摘した『青の歴史』への批判の一部が的外れである(パストゥローは、ローマ人は青を見なかったとは言っていない)と主張します。また、本書は色に関する書物でありながら図版がありませんが、昔のカタログなどのように、色なしでも色について語ることはできることを示そうとしたといいます。 最終章は、色は文化的・社会的なものであるという、パストゥローの一貫した主張をあらためて述べたうえで、古代からの白・赤・黒の3色体系から中世における白・赤・黒・緑・黄・青の6色体系への移行などを論じます。 以上、簡単なメモとなりましたが、パストゥローの自伝的要素も含む本書は、面白いエピソードも多く、興味深い1冊です。(2025.12.14読了) ・西洋史関連(洋書)一覧へ