のぽねこミステリ館

2007/03/03(土)16:50

島田荘司『アトポス』

本の感想(さ行の作家)(231)

島田荘司『アトポス』 ~講談社ノベルス、1996年~  御手洗潔シリーズの長編です。ノベルス版で758頁と、けっこう長いです。それでは、いつものように内容紹介と感想を。  作家のマイケル・バークレィの最新作『ビヴァリーヒルズの吸血鬼』は、 16-17世紀を生きた稀代の「吸血鬼」であるエリザベート・バートリを題材にしていた。しかし、彼は、その作品が出版される前に殺害される。彼の首は切断され、銀色のお盆に載せられていた。    *  松崎レオナ主演の映画『サロメ』関係者に、恐ろしい事件が続発していた。ビヴァリーヒルズで起こった五件の乳児誘拐事件。五件とも、関係者の家で起こったのだった。また、レオナと主演の座を争っていたというシャロン・ムーアも失踪していた。バークレィ事件とムーア事件を追うロスアンジェルス市警のライアンとルイスはレオナを追跡する。二人は、レオナが異常な人物だという認識を強めていく…。    *  『サロメ』の撮影は、死海のほとりで行われることになっていた。先発隊と後発隊が合流し、ついに撮影をはじめたときに、第一の事件が起こる。サロメ役のレオナが、ヨハネの首に口づけするシーンで、レオナに異変が起こった。見守っていた人々は、その首が、ヨハネ役のミランドーの本物の首と気付いた。  翌日には、さらに奇妙な事件が起こっていた。美術監督オリヴァー・バレットの指揮で、死海には塩の結晶でできたとみたてた山のセットを浮かべていた。60フィートも上にある頂点にたてられた剣に、人間が突き立てられていたのだった。  数年ぶりの再読です。いくつかのトリックや事情は、あまりにも印象的だったので覚えていたのですが、犯人などはすっかり忘れていたので、ミステリの部分でも十分に楽しめました。著者の言葉にもあるので簡単に書きますと、ある「病気」が本作の重要な鍵となっています。最近御手洗シリーズを再読しているので、似た要素をもつ話を連想したのですが、(以下文字色をかえます)「舞踏病」です。薬の使用をめぐっては、まだまだ問題があるのだと思います(ここまで)。  「長い前奏」の部で、バークレィの『ビヴァリーヒルズの吸血鬼』が作中作の形で挿入されているのですがそしてそれが長いのですが…、とても興味深い物語でした。  エリザベート・バートリについては、私がいままでに読んだことのある著者でいえば、桐生操さんがいくつかの本でふれていることもあり、また、本作が再読ということもあり、それなりに知っているつもりでした。彼女が血に目覚めるきっかけは、たとえば桐生さんの『美しき拷問の本』と本作では、若干相違があります。史料の問題もあるでしょうし、どちらが正しいのかは分かりませんが…。いまぱらぱらと読み返してみますと、桐生さんの『美しき拷問の本』には、本作にはふれられていないバートリによる拷問の手法が紹介されています。…嫌な気分になりますね。  本作は、レオナさんが主人公ということもあり、本作より後に発表される『ハリウッド・サーティフィケイト』を連想します。ただ、『ハリウッド・サーティフィケイト』は、御手洗さんが電話で助力してくれて、解決するのはレオナさんなのに対して、本作では御手洗さんがかけつけてくれます。これほどかっこよい登場シーンは、なかなかないのでは、と思います。  そして、島田さんのいろんな作品で感じるのですが、悪いのは誰だったのだろう、ということです。あまりにもひどい事件(背景)も語られます。こうした殺人も決して許されることではないと思いますが、犯人の境遇を考えると、どこかやりきれない気分が残ります。  さて、本作では、具体的な事件の年代はふれられていないのですが、『水晶のピラミッド』事件の4年後ということなので、1990年7月の事件のようです。これで、手持ちの御手洗シリーズは全て読んだことになるので、簡単な事件年譜も完成しましたし、また記事にアップしたいと思います。

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