京極夏彦『陰摩羅鬼の瑕』
~講談社ノベルス、2003年~
百鬼夜行シリーズの長編第7弾。
今回は、依頼先に向かう途中で体調を崩し、一時的に視力を失ってしまった榎木津さんと、そのサポートとして訪れた関口さんの2人が、「鳥の城」で事件に巻き込まれます。
それでは、簡単に内容紹介と感想を。(内容紹介は2006.09.23の記事をほぼ再録)
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物語の舞台は信州。「鳥の城」などと呼ばれる、由良元伯爵の館。そこには、先代の当主により集められた、莫大な数の鳥の剥製が飾られいた。
館では、過去四回、現在の当主由良昂允(通称伯爵)の妻が、新婚翌日の朝に殺されるという事件が起こっていた。そしてこの夏、伯爵は五回目となる結婚をしようとしていた。しかし過去四回も同様の事件が起こっているので、伯爵は探偵を雇うことにした。そこで呼ばれたのが、榎木津礼二郎だった。しかし榎木津は信州に向かう途中、病により、一時的に視力を失ってしまっていた。そのため、その補佐として、関口巽がやって来た。
伯爵は、榎木津よりも関口に関心を持っていた。そして、彼に何度も問う。
「貴方にとって生きて居ることと云うのはどのような意味を持つのです――」
過去四度の「事件」は、朝方伯爵が夫婦の寝室を出てから、その数十分(あるいは十数分)の間に起きていた。犯人がつからないまま、三つの事件は既に時効となっていた。
そして、今回。婚礼の宴は無事に過ぎ、夜明けには榎木津も関口も事件を防ぐべく動くのだが…。
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今回、2度目の再読です。あまりに印象的な真相だったので、真相のポイントは覚えていましたが、解明に至る流れがあらためて面白いです。
関口さんと横溝正史さんの出会い、学生と京極堂さんによる姑獲鳥をめぐる議論、伯爵と関口さんの「存在」や「死」をめぐるやりとり、どれも興味深く読みました。
物語は、伯爵、関口さん、そして過去三回事件に立ち会っている元刑事の伊庭さんそれぞれの一人称で語られます。順番は不規則ですが。京極堂さんが今回動くのは、未解決に終わっている過去の事件をどこかひきずっている、伊庭さんの依頼によります。その伊庭さんも素敵な方でした。粗暴な警部に注意したり、関口さんが「まとも」であることを理解したりと、大活躍です。
関口さんは事件の度に壊れてしまいそうになりますが、だからこそ、雪絵さんとの買い物のエピソードではなんだか涙が出そうになりました。
正直、再読回数の関係もあるのか、シリーズの中では(真相を除き)あまり印象に残っていなかったのですが、今回あらためて再読してみて、好みの物語であることを再認識しました。
良い読書体験でした。
(2023.11.21再読)
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