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2009.01.25
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鷺沢萠『かわいい子には旅をさせるな』
~角川文庫、2008年~

 鷺沢萠さんのエッセイ集です。一つ前の記事で紹介した『待っていてくれる人』が、割合しんみりするような、考えさせる話題が多いのに比べて、こちらはかなり笑いの要素が強い話が多いです。もちろん、考えさせられる話もあります。

 笑える話といえば、目次だけでもたとえば「カニになった日」「エビになった日」というのが並んでいて、どちらの話も笑えます(でも後者は気の毒ですが…)。いちばん笑いながら読んだのは、「良い子は決してマネしないでね!」でしょうか。

「そうそう!」と思ったり、「なるほど…」と思ったりして興味深かった話もいくつか。
 たとえば、冒頭の「平成のツボ」。私自身、元号と西暦の併用が煩雑で不合理だと思っているので、この話でまさにその話がふれられていて、おっ、と思いました。ちょっと文字色を変えて引用しておきます。
昔の書類などに、「元号」で書かれた年、たとえば「平成八年」などの文字が記されていて、 [中略]少しのあいだ考え、「平成八年」が西暦でいえば何年に当たるのか、その答えを探しあててから、やっとそれが「いつのこと」なのかを把握する、といいような経験は誰もがしているのではないかと思う」(9頁)
 私もまさにそうで、手帳には西暦と元号の早見表がないと安心できません。
 鷺沢さんが個人の趣味の範囲で元号を使えばいい、と書いていることに頷くと同時に、干支(私自身は一ヶ月もたてば今年の干支を忘れ、年末に翌年の干支を認識する程度です。割とこういう方も多いのではないでしょうか)みたいに、年末年始にちょっと話題になる、くらいでも…と思ったりしてしまいます(つまり、元号は廃止すべき!とまでは言いません)。
 が、こちらも鷺沢さんがおっしゃるように、世代や職種(後者についてはもっと広く「便利な表記」についてもありますが)で、こうした問題に対する考え方も変わってきますので、上に書いたことがそのまま正しい、と主張することはしませんが(一時期よくお話ししていた年配の方は、元号の方が分かりやすいとおっしゃっていましたし)、不合理だなぁとは常々感じています。…といって、私自身の日常の行動の中には、不合理な行動も多々含まれているのだろうとは思いますが…。

 そして、もう一つは、「まじッスか!?」という話。「マジ」という言葉が、当初は「新奇な言葉」であっただろうにも関わらず、こんなにも世の中に定着している理由を探ります。このような省略言葉、あるいは外来語をさらに省略するような言葉(アポなど)について、言葉はどんどん変わっていくものだということで割合肯定的な見方をしつつ、日本語を外国語として学ぶ方も考慮しながら、その問題点もふれるあたりに、鷺沢さんのエッセイの「核」みたいなものを見るように思います。鷺沢さんは「言葉」の問題についてとても敏感で、そしてそれを特に外国語との関わりの中で考える方だなぁと、本書などのエッセイで感じています。単に、たとえば英語を学ぶ際に外国語を意識するのではなくて、日本語自体も外国人から見れば外国語であり、どこか相対化して見ているような、こういう見方は、広い視野を持ちたい、と思わせてくれます。

 最後に、もうちょっと、しんみりと、あるいはじーんと考えさせられた話について、ふれておきます。
 一つは、同じく言葉の関連で。外来語は、その国の発音にあわせて定着します(本書の例ではcake[ケイク]がケーキ、などなど)。逆に、その外来語発音が当たり前だと思ってしまったとき、本来の外国語の発音を知らない、なんていうこともありえます。外来語の発音が悪い、と言いたいわけではありませんが、ここでも、視野は広く持たねば、と考えた次第です。

 最後のエッセイは、とてもしんみりしています。興味深い一節を、文字色を反転させて引いておきます。
「血まみれ」というと、まあことばとしてはどぎついけれど、状態としての「血まみれ」を経験することは、そう悪いものでもないと、今でも私は考えている。逆説的な言い方に聞こえるかも知れないが、「血まみれ」になったことがない、というよりはよほどマシなのではないか。なぜなら「血まみれ」を知っている人は「血まみれ」でいる人に対してたとえばやさしさという感情を抱ける」(207頁)
 深く頷きながら読みました。本書には、鷺沢さん自身が鬱などで通院していてという話もあり(こちらも個人的な経験と結びつけて感慨深いものがありました)、きっとそうした苦しみを経験した人は、同じような状態にある人に心ない言い方をすることはないでしょう。たとえば、これも鷺沢さんのエッセイからの例ですが、鬱(状態)などで苦しんでいる人は、自分の悩みよりももっと大きな悩み、大きな苦しみを抱えている人がいる、ということは百も承知です。でも、苦しいんです。これが、最後のエッセイで言う「血まみれ」の一つでしょう。「お前より苦しい人はいっぱいいるんだ」という言葉ほど無意味なものはない、と鷺沢さんもおっしゃりますが、まったくその通りだと思います。
 なんというか、こういうことを考え始めると際限がつかなくなり、まとまりもなくなってしまいますが、とにかく、共感しながら読みました。

 解説にも、印象的な言葉がありました。私自身は鷺沢さんと会ったことはなく、ただの読者ですが、それでも感じ入る部分がありました。それは(読者の立場に重点を置きながら引用します)、「彼女の本を読んでいなかったら、世の中の様々な問題にも気づかず、もっともっと視野の狭い、今よりも更に鈍感な人間になっていたと思うのです」(218頁)という部分です。
 特にこの解説を意識しながら上の感想を書いたわけではありませんが、それでも「視野が広がる」と感じながら読んでいたのは間違いありません。もちろん、もっと広く言ってしまえば「心が豊かになること」が、読書、さらには学問の最大の目的というか意義とさえ私は思っていますが(それ以前になにより楽しいのですけれど)、鷺沢さんの作品も、それが強く感じられるなぁ、と思うのです。

(2009/01/24読了)





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Last updated  2009.01.25 10:08:19
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