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カテゴリ:書評
吉田祐二著 学習研究社 2009.9 日本属国説、金融支配説の観点から、日本の資本主義の発展と今日の金融危機を解説する。その主張はユニークにして明快である。 1.著者の視点は以下の三点である。 1)世界は金融を中心として回っている。 2)日本は依然としてアメリカの属国である。 3)貨幣を支配する者(中央銀行総裁)こそ真の権力者である。 2.現実には、経済学の「市場メカニズム」は機能していない。 なぜなら、銀行はマネー(信用)を創造できるし、その量を調整できるからである。 金融を支配する者が恣意的に好況(バブル)も恐慌も発生させることができるし、発生させてきた。 中央銀行と銀行の関係も、銀行と企業の関係も非対称である。従って、中央銀行は「窓口指導」により経済を人為的に操作することができる「絶対の権力」を有している。 3.日本銀行の歴史をみれば、その権力の大きさがわかる。 日銀はロスチャイルドが創った。松方正義がロスチャイルド家の「番頭」だったフランス蔵相レオン・セーの示唆によって日本銀行を創った。その目的は国立銀行から貨幣発行権を奪うことにあった。 (それまでは、全国にあった国立銀行がすべて貨幣発行権を持っていた) 貨幣を支配する者(中央銀行総裁)こそ真の権力者である。 円のプリンスたちとも呼ぶべき権力は、新木栄吉 一万田尚登 佐々木直 前川春雄 三重野康 福井俊彦へと受け継がれていった。 中央銀行の秘策は「信用統制」ということに尽きる。 大蔵省とのたすきがけ人事が行われるようになって以降は、大蔵省出身の総裁には日銀の“秘伝”は伝授されない。大蔵出身の総裁のときには、「プリンス」は副総裁に就いていることが多い。 4.戦後の日本はアメリカの属国として発展を遂げ、いまだアメリカに服従している。 世界の覇権国アメリカでは1933年に権力がロックフェラー家に移った。 つまり、ロスチャイルド系譜(モルガン)からロックフェラーへと支配者が交代した。ルーズヴェルトはロックフェラーの傀儡である。このときから、ロックフェラーは金融を握った。 対日占領政策の転換もロックフェラー家の意向に沿ったものである。ジョン・ダレスは同家の法律顧問であった。 アメリカは日銀を繰って日本を「構造改革」させようとしている。「年次改革要望書」の存在がその構造を物語っている。 プリンス前川春雄は日銀総裁辞任後の1986(昭61) に「前川レポート」を作成し、日本経済のアメリカ型経済への移行を提言した。当時は中曽根内閣の時代であった。 その後、歴代の自民党政権を動かせて日本の「構造改革」は進められた。 バブルは日銀の意図的な失策の結果である。 このとき、日銀の「窓口指導」は企業の「借入を増やすために」用いられた。 郵政民営化の問題の中心は銀行である。2006年に「ゆうちょ銀行」が設立された。総資産は200兆円にのぼる巨大銀行である。 西川善文には竹中、福井ら怪しいゴールドマン人脈の取巻きがいる。 好況(バブル経済)を演出したあとに不況を長引かせて、構造改革に持ち込むというスキーム(計画)である。 5.仕組まれていた2008年大不況 それは、クリントン政権末期の1999年「金融サービス近代化法」(通称グラム・リーチ・ブライリー法)の発効にさかのぼる。この法律により商業銀行と投資銀行の業務範囲を分けた「グラス・スティーガル法」が実質的に無効化された。 そして、銀行が「信用創造」により創り出したマネーが投機に回ることになった。それは際限なくひたすら証券市場に流入する。そして金融モンスターが復活した。 これが2000年以後のアメリカの好況(ブーム)の本質である。 このバブルを創り出した者こそ、FRB(連邦準備理事会)のグリーンスパンと元財務長官ロバート・ルービンにほかならない。 6.不況は長期化する。 景気は当分の間よくならない。なぜなら銀行を潰さないからである。 銀行を潰せば銀行が持っていた資産の投売りが始まり、土地や家などの最低価格が定まる。あとは経済は上向く。 オバマはけっして革新的な政権ではない。ガイトナー、ボルカーら銀行業界の代表たちが権力を保持している。だから、オバマ政権の下では「改革」はありえない。 なお、「大きすぎて潰せない」とよく言われるが、それはごまかしである。 潰さないのは、中央銀行の大株主は大銀行であるという理由による。大銀行は潰れることなく 不況はただ長引く。 日本はもっと悲惨な状況に置かれる。 アメリカが不況の間は日本も不況である。属国はアメリカの負債を肩代わりしなければならない。被支配階級への搾取はますますひどくなる。 確実に中央銀行家たちのプランのもと、日本の社会改造は進められるだろう。 バブルこそ資本主義の本質であり、「貧乏人対支配階級」という対立軸のみが問題である。この軸からものごとを見れば、本質がよく見える。 バーナンキの8年間(⇒2014)は景気は悪化するし、オバマ政権が続けば、アメリカの統制国家化が進む。 【所感】 ユニークな視点から歯切れのいい論調で、現代資本主義を断罪する。その論旨は明確でわかりやすい。 「銀行による信用創造とバブルは全く同じ構造」という小室直樹氏の引用も現在の金融危機の本質をついた表現である。 ただし、あまりにも明快な切り口の故か、若干現実にそぐわない点も見受ける。(この著書のいわんとするところから見れば本質的な部分ではないが) 1)日本属国論について 日本だけが属国なのではなく地球上のあらゆる国と地域が程度の差こそあれ本来あるべき独立性を著しく制限されているということではないのか。 それは、おそらく、地球規模で金融資本なるもの(それは著者がロスチャイルド財閥と呼ぶものに近い)が覇権を確立したことにより生じた、政治的現象なのだと思える。 2)では、その出口はないのか?著者の結論なるものがややペシミスティックに過ぎるのが気になる。金融資本の支配が、金融危機を引き起したという歴史の事実そのものが、その矛盾と出口を暗示しているようにワタシには見える。 3)アメリカの支配権が、1933年を境目に「ロスチャイルド系譜のモルガンからロックフェラーに移った」という見方は如何なものだろうか?事実は、統合と分離を繰り返しながら、支配者間の闘争も激化しているということなのではないだろうか。 著者も書いているように、今回の金融危機の勝者はモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェースである。ロックフェラー系のバンクオブアメリカ、シティグループは目下のところ負け組みである。 もっとも、負け組みたちは市場から敗退したのではない。息をひそめながら、その資金力を温存し、モンスターとしての復活の機会を窺っているにすぎない。新たなバブルはすでに準備されている。 以上
<書評>・・・過去記事より・・・ 『リクルート事件江副浩正の真実』(江副浩正) 『民主主義がアフリカ経済を殺す』(ポール・コリアー) 『ロッキード事件「葬られた真実」』(平野貞夫) 『わが友・小沢一郎』(平野貞夫) 『「特捜」崩壊』(石塚健司) 『共生経済が始まる』(内橋克人) 『米金融危機が中国を変革する』(真家陽一) 『チャイナ・アズ・ナンバーワン』(関志雄) 『株の損は株で取り戻せ』(若井 武) 『行動ファイナンス理論』(真壁昭夫) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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