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カテゴリ:心に残った短歌
コスモス8月号あすなろ集より、印象に残った作品
空港でマスクのままにキスをする別れの男女の写真が載りぬ(西川立雄) 普段はなかなか見られないところを捉えたカメラマンさんと、その写真に目をとめてさっそく作品にした作者。どちらも、アンテナを張っていたからできたことだと思う。 カナダにいると、マスクそのものも違和感があるので、余計にそのインパクトを感じるのかもしれない。 十余年別居の妻が戻るとふ何はともあれ煩はしきかな(佐野 邦司) 四句、五句が、妻が戻る喜びをひとひねりして照れくさそう。いかにも日本男児的表現で微笑ましい。でも、うれしいときは嬉しいといわないと、そこを察してくれるような女性はだんだんに少なくなりますよ。 犀川の中洲に佇む鷺一羽さうかお前も独りが好きか(洞田 哲子) 一人になりたくて、犀川を見にきた作者か。そうは言っても、自分と同じように見える鷺に親しみを感じるところが、人間らしいところだろう。 夢を追ひ輝きてゐし若き日よされど老いたる今も夢もつ(三嶋道子) 若いときの夢とはまたちがった夢があって・・・ 花びらのおのが重さに白牡丹床に崩れるその音を聞く(高田文代) 崩れるように終わる白牡丹の花。 「音」を聞くというところに、作者の気持ちが入っている。 厨とはすさまじき場所袖まくり腹割り皮剥ぎ頭を落とす(近藤 倫) 普段はそこまで思わずに作業をしていたが、考えてみればその通り。「食」はきれいごとではすまない。 住む人もなきゆえお城は寂しいと山下清の絵に添えし言葉(太田いずみ*) そうか、住む人がいないからだったのか・・・。なるほど。 いくら手入れをされていても、そこに命が宿らないのかもしれない。 ドラえもんスーパーマンにオバマさん田んぼは多彩な案山子の世界(菅谷幸美) オバマ大統領まで案山子にされているとはびっくり。多忙な農作業の中で、ユーモアのセンスを失わない様子が伺われて楽しい。 職場の短歌つくりたけれど立ちはだかる地方公務員法守秘義務の壁(新宅道和) いつも心にかかっていることを詠めないもどかしさがあるのだろう。もっとも、他の職業の人でも、仕事については何もかも詠むというわけにはいかないと思う。私も、翻訳業に関しては「内容について、他に漏らさない」という文書に、公証人立会いの上で署名している。 「この気持ちは口語だなあ」といふ時と「文語の景色」と思ふ時があり(森本武子) まったく同感。口語で底抜けに喜び、かっかと怒り、文語で悩み悲しみ、口語の情景に参加し、文語の景色を眺める・・・ついでに漢文調で詠嘆し、スペイン語で激しい愛を交わすなんていうのはどうでしょう。 虹色に穂先かがやく朝掘りの筍の皮わくわくと剥ぐ(千葉喜美子) こういう筍は、さぞおいしいだろうと思わされる一首。「虹色に穂先かがやく」にまず感動し、「わくわくと剥ぐ」に羨望の念が湧く。 歌誌を読み入門書読み歌集読めば紙背に汝あきらめよとあり(曾 有宮) 気持ちがよくわかる歌。私も、本(特に、入門書や歌論)を読むたびに、あきらめるしかないように思う。でも、その中で時々なにか、励まされるものを感じて気をとり直すのだけれども・・・。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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