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テーマ:懐かしい昔の話(545)
カテゴリ:懐かしい昔の話
【晴】《11日の続き》
拝殿からの灯を受けて、我が家の一升枡は渡り廊下に長い影を作って、ポツンと淋しそうに置かれているのを見ると、突然ひとりぼっちにされた犬が、心細そうに飼い主を待っているようで、私は何だか一升枡が可哀想になってしまった。 「誰だよ、ひとんちの物をこんなところに置きっぱなしにして。大体おめえらは何やってもいい加減なんだよ」 私はしょんぼりしている仲間に、思わず小言を言ってしまった。 「悪かったよ、ごめんな」 皆が口を揃えて謝るのを聞いている内に、何だか気が抜けてしまい、「あ~あ、もうけえるかな。俺はもうくたびれちまった」と言うと、他の連中も、「そうだな、俺も腹へって飯食いてえよ」とか、「俺ぁ寒くって仕様がねえよ。早く家へ帰るんべ」とか、結局全員揃って帰る事になった。 神社を出ると、目の前を鎧行列が通り掛っていた。 その当時は、まだ鎧の全てが古いままで修繕もしていなかったので、薄暗い外燈の下をガシャガシャと音を発てて行く姿は、まるで戦国の世の武者達の亡霊を見るようで、勇壮というよりも、むしろ怖い感じがして、まわりに人が沢山いたから大丈夫だったが、もし私一人だったら、到底この場に立ってはいられなかったろう。 列の前後からヴォーというホラ貝の音が響き、黒々とした流れは、いつ止むとなく続いていた。 《アトリエ白美:渡辺晃吉》 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2005年02月12日 21時36分54秒
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