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テーマ:懐かしい昔の話(545)
カテゴリ:懐かしい昔の話
【晴】
学校から帰ると、父が何本かのノコギリを用意して私を待っていた。 「このノコギリの目立てを頼んで来てくれ。多分その場でやってくれるから、出来るまで待って、待ち帰って来い」 ノコギリの目立てをしてくれる人の家には、今までに何度か行っているので、私は喜んで使いに出た。 大きなマキ引きノコが一本と両刃が一本、それに銅付きが一本だった。 ノコギリを抱えて表通りに出ると、学校帰りの板橋とバッタリ会った。 「どこに行くん?」 「ノコギリの目立て屋だよ」 「ウァー、俺も一緒に行っていい?」 私は連れが出来るのが嬉しくて、「ウン、一緒に行こう」と直ぐに返事をした。 「僕はまだノコギリの目立てをする所を見た事ないんだ」 板橋は自分の事を僕と呼ぶ、少数派の一人だった。 「けっこう面白れえぞ」 ノコギリの目立てに限らず、私は手仕事の現場を見るのが、なぜか大好きだったので、そんな折には時の経つのも忘れて見学した。 「あんな硬い物を、どうやって研くのかな?」 板橋にとっては、細かい刃がズラッと並んだノコギリを、砥石も使わずに仕立てるのが、物凄く不思議なのだと言う。 「目立てヤスリとヤットコでやるんだよ」 私は少し得意そうに板橋に教えてやった。 簡単な目立ては、父や職人達が、素人仕事でやっているのをよく見ていたので、私にも真似事くらいは出来たから、言葉で説明できなくはなかったが、「向こうに着いたら、おじさんが目立てする所を見られるぞ」と、板橋に言った。 《アトリエ白美:渡辺晃吉》 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年04月10日 21時45分16秒
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