テーマ:ショートショート。(1084)
カテゴリ:創作
私の名は大工。本名をジュブナイルの大工という。人は私を閃光発火の大工と呼ぶ。あまりにも素早いカンナがけによって、木材が燃えてしまうからだ。そんな超絶技巧を持つ私は、そこらじゅうから引っ張りだこ(のはず)なのである。
「家を建ててくれないか」 そんな依頼があったらば、すぐに駆けつけカンナを削るのが大工としてのアイデンティティーなのである。 私は1人で何でもこなしてしまう。機械などいらないし、人手などもってのほか。何しろ、「大工の中の大工の中の大工の中のそのまた大工」と呼ばれても過言ではない私である。削り・くみ上げ・塗装、すべて私一人で済ませてしまうのが、ジュブナイルの大工。人呼んで、選考発火の大工である。あ、木材燃えた。 しかし、普通の家を普通にくみ上げてもつまらないものである。ここは一つ、家人に素敵なプレゼントをしてやろうではないか。とりあえず、玄関は自動ドアにする。ただし外開きだ。「ただいまー」といいつつ入ろうとした家人は、入室拒否ならぬ入家拒否をされるかのごとく、ドアに顔をはたかれるのである。うむ。採用。 次は、庭に離れを作る。この離れには家からの通路はなく、入るには一度靴を履いて庭に出なければいけない。そうしないと、壁を倒すことができないからである。電機のスイッチをつけると、壁が四方にバターンと倒れるのである。呆気に取られる家人を尻目に、内蔵されたスピーカーから流れる音楽。もちろん、流れる曲はドリフである。 とどめに、各部屋に一つずつ「押したらでめ」と書いたボタンをセッチする。スイッチではないぞ。昔のアニメに出てくるようなボタンだ。「だめ」ではなく「でめ」というところがポイントだ。押していいのか押したらまずいのか、悶々とした気分で毎日を過ごすであろう。そして、遂に我慢できず押したとき、庭からパンツ一丁でマッスルポーズを決めた田中さん(神奈川県在住)がせり出してくるのである。どうしたらいいのか分からない家人。しかし、皆押したかったはずだから、押した人間を責めるに責められず、苦虫を噛み潰すような表情の家人。マッスルポーズでピクリとも動かぬ田中さん。時は凍るのである。素敵だ。 家の引き渡しが終わって三週間後、家人がなんともいえない表情で尋ねてきた。 「あのボタン押したらどうなんの?」 「知るか」 塩撒いて追い出してやった。全くもって、ロマンのない男である。そんなんだから、鼻に包帯を巻くような目に会うのである。どうせ、夫婦喧嘩でもしたのであろう。「わびさびのわからない男ね!」「え? わさびが何?」「どぐしゃあ!」ってなもんである。 とりあえず、今はただ田中さんの早期発見を祈るのみである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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