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カテゴリ:コラム
※この文章は2005年1月11日に当会HPに掲載されたものです。 外来種問題は生物多様性国家戦略にも「日本の在来の自然生態系を脅かす第3の脅威」として取り上げられているように、今日の自然再生事業においても大きな障壁となっています。先日(‘05/1/8)の新聞記事において、「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」の最初の規制対象種として、ジャワマングースや、ブラックバス類でまだ国内での生息域が限られているコクチバス、水草のミズヒマワリなど45種類のみが指定される、と掲載されていました。今日の日本の淡水域生態系の大きな脅威の一つであるオオクチバスは除外されました(今後検討するとは記されていましたが)。 肉食魚であるオオクチバスは、在来魚へのインパクトが非常に大きいいわば「害魚」である一方、日本の釣り産業に1000億円を越える収益を生み出しており、ある社会層からみれば「益魚」であるともいえます。この[「害魚」としてのバス] V.S. [「益魚」としてのバス]の対立構図が、今回の規制対象から見送られた背景にあると考えられます。 では、このような対立構造に対して、私達はどのように対処すべきでしょうか?この対策法において、その構造に対処出来る(はずである)機能はすでに内在されていると考えられます。それは対象種の指定方法として利用されている「リスク管理」という手法です。本来、リスク管理(特に生態リスク)は、その事象の社会的・生態学的リスク、その対策の費用対効果、及び社会的なコンセンサスの程度から、総合的に判定していくものです。では、なぜそれがうまく機能していないのでしょうか?実社会でリスク管理を適用すると、やはり政治的な要素からの脱却が困難で、常に産業主導的なバイアスから逃れられないという欠点を持つことが指摘されています(金森ら2002、松崎2002)。つまり、対象種指定を考える上で、私達がどこまでそのバイアスから抜け出せるかがキーになると考えられます。これは「バス釣り」の産業的メリットを否定しているわけではなく、そのメリットを適正な範囲で主張していくことが重要であるということです。すると、「害魚」と「益魚」の二面性を持つバスの「害」と「益」のバランスをどのように保っていくかということが重要です。その観点からすれば、規制対象種からの除外は、このバランスポイントを探す作業の放棄につながってしまうという意味で大きなマイナスになるのではないでしょうか? 引用文献 金森修ら(2002)リスク論は社会の中でどのようにつかわれているのか.科学72(10): 1022-1029. 松崎早苗(2002)リスク・アセスメントをベースとするリスク管理の環境政策への批判. 科学 72(10):1036-1042. 関連情報: 今回の45種のみの指定に関する記事 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050108-00000201-yom-soci 「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」について http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=4762 「生物多様性国家戦略」について http://www.biodic.go.jp/nbsap.html 江成 広斗(東京農工大学) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.11.28 10:55:17
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