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自然再生と地域社会

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2023.11.10
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カテゴリ:書評・文献紹介
運営委員の角田です。
最近発見した論文をちょっと紹介します。

ドイツで回復したオオカミ個体群の生息適地を評価・推定した論文になります。
数年前にも、ドイツ個体群を題材にした論文はあったのですが(例えば​こちら​)、今回の論文ではもっとデータも充実しています。

​Understanding habitat selection of range-expanding populations of large carnivores: 20 years of grey wolves (Canis lupus) recolonizing Germany​
https://doi.org/10.1111/ddi.13789
(オープンアクセス論文のため、無料で全文読めます)

特筆は、個体群回復プロセスを考慮した生息適地の評価。
初期の東部地域(ザクセン州)からベルリンのほうを経由して、黒海沿岸を中心に分布が回復しているわけですが、それを3フェーズに分けてモデリングして、分布回復のパターンの違いや生息適地として影響する要因のフェーズの違い・地域性などを考慮しています。
生息環境の状態は当然地域で大きく異なり、ナワバリ性のオオカミでは先住の群れの有無が分布変化に大きく影響するので、より広域での評価に対してこういった点を考慮した評価・推定が必要かつ有効そうです。

ちなみに、今年はオオカミの生息適地を扱った論文がやたらたくさん発表されています。
私が把握しているだけでも年内に5報。
そして、ほぼすべてがヨーロッパ地域です。
ここ10年の分布回復によって軋轢も少しずつ増えているので、EUの保護管理上の大きなトピックとなっているのでしょう。
そういった社会ニーズを反映しているように思います。


ちょっと気になって手持ち+ウェブで生息適地評価を行っている文献をざっくりと調べてみると、地域別では以下の通り(あくまで私が把握した範囲)。

北米:9件(アカオオカミの例を含む)
ヨーロッパ:北欧個体群1件、中欧個体群6件、アルプス個体群5件、イベリア個体群4件、UK1件
非欧州ユーラシア:3件

やはりヨーロッパ圏が目立ちます。
古いものは90年代からあり、長年主要トピックとして研究が行われていることがうかがえますが、やはりここ10年くらい、空間生態学やハビタットモデル研究の隆盛と解析技術の発展も反映してか、すごく増えている印象ですね。

これらは、空間スケールも様々で行動圏や複数の群れなどのローカルスケールを扱ったものから、国や複数の国をまたがる広域スケールまでいろいろ。

評価・推定のベースとなるオオカミのデータも、テレメ調査に基づくもの、目撃や痕跡など在・不在データ、珍しいところでは大規模な分布衰退が起こる前の19世紀の古文書データを使ったものなどもありました。
また手法については古くは回帰モデルなどを応用した例ばかりですが、最近は線形モデルだけではなくMaxEntや深層学習などいろいろなアプローチも行われています。
ちなみに、オオカミが完全にいない地域の文献は20年以上前に発表された日本(ちなみにこれは、研究室の大先輩の仕事)と、今年の初めに発表されたスコットランドの2件のみ。
やはり在データがないと論文としての扱い(信頼性)がなかなか難しいのでしょうか。


ただ、結論(生息適地に影響する要因)はどの論文でもそれほど大きくは変わらないようで。
種としてのオオカミは自然分布域の広さを見ればわかるように、究極のハビタットジェネラリストで、北半球であれば砂漠などを除いてほとんどの地域に生息できます(餌さえ十分にあれば)。
そのため、地形や植生タイプそのものが影響しているということはほとんどなくて、多くの場合それは人為干渉の代替・間接パラメータとなっています。
例えば、いくつかの文献でオオカミの生息環境として高標高地域や森林域が適していることを示していますが、これらも結局は人為改変の少ない土地利用を反映しているだけ(実際に論文でもそのような考察がなされています)。
多くの文献で人口密度や道路密度などの影響が議論されており、いわゆる人新世においては、最もクリティカルな要因は人為干渉強度ということになります。


さて、私がこの手の文献に着目する理由は、当然?日本での生息適地の推定ではあるですが、それそのものは研究としてあまり面白味がありません。
先にも述べたようにそもそも日本では在データを取ることはできないので、結果の信頼性をどう考えるかもあるですが(要するに、単なる机上の空論との指摘も出るわけで)、
もっと大きなところは、これまで色々な場面で私自身が述べてきたように、シカやイノシシが全国的に多く分布し森林率が高い日本では、生息適地はすでにたくさんあるというのが自明で、改めて新しい研究(正確には先行研究のアップデート)として実施する科学的意義がなかなか見えません。
(再導入議論のベースにはなりえる情報かもしれませんが)
既存の(=海外の)事例の知見を応用した生息適地評価から得た情報を元にして、日本の再導入における何を科学的に議議論すべきか(できるのか)が、新しい研究には求められます。

もちろん、私も生息適地評価のみを目指した研究をするつもりはなくて、一ひねり、二ひねりしたアイデアを温めてきていますので、ぼちぼち開始したいところです。
私の場合、解析スキルの貧弱さが大きな課題ですので・・・(苦笑)、この辺りはご専門のEさんから大いに助けを得ながら進めようかと。


角田





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Last updated  2023.11.10 12:30:06
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