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テーマ:ショートショート。(573)
カテゴリ:SSもどき
自信満々に話す真壁に、抜田は呆れた。 「そんな作戦、どうやって思いつくんだよ」 「昼間のワイドショー」 「講義出ろよ。じゃなきゃバイト行け。電気代を使うな」 「バイト先で見てんだよ」 「どーゆーバイトだよ」 「駅前のパチンコ屋で」 「景品交換か?」 「いや、スロット。パチンコ冬のアナタとか結構いいぞ。吉宗もなかなか」 「っっっ働けーっ!!」 抜田の罵声が飛んだが、真壁は平気な顔で家素本に向き直った。 「とにかく家素本、お前はこれから矢追のところに行ったら、奴が電話に出ないようにしろ。かかってきても、取らせるんじゃないぞ」 「うん。わかったー」 どこまで分かっているのか、家素本は元気に言って、学食を出て行った。 「抜田、お前は鉄道警察の役な。矢追の家に電話して、奥さんに奴が痴漢で捕まったって言うんだ。俺が矢追の役をやるから、適当なところで変われ」 真壁がすでに番号を押した携帯を渡してくる。抜田が受け取ると同時に相手が出た。 「はい。矢追でございます」 はきはきした女の声だ。矢追教授の奥さんにしては、若い気がする。 「あの、こちら、鉄道警察の者ですが、奥様でいらっしゃいますか?」 「はい、そうですが」 「教授の奥さんにしては若そうですね」 思わず本音が出た。警察役が教授と呼ぶのはNGだろう。しかし、相手は一向に気にしないばかりか、上機嫌になった。 「あらぁ、お世辞がお上手ねぇ。で、何のご用?」 「えーっと、あれ? 何だっけ?」 「いらんことを言ってるから肝心なことを忘れるんだ! 痴漢だチカン!」 真壁が横から叱咤する。 「ああ、そうでした。実は私、警察の者なんですが、気を落ち着けて聞いてくださいね」 「気が昂ぶってるのはあなたの方でしょ」 「なかなか鋭い突っ込みですね。でも、この先をお聞きになったら、あなただって平静ではいられませんよ。ふふふ」 不気味に笑う抜田を、真壁がはたいた。 「何、脅してんだよ!」 だって、脅すためにかけてるんだろうが。 抜田は言い返したかったが、電話の相手に聞えるのを怖れて、口に出すのはぐっと堪えた。代わりに就職活動で鍛えた流暢な面接喋りで、相手に嘘の経緯を説明する。 「それでですね、ご主人が、女子高生に痴漢行為をしてしまいまして、こちらに身柄をお預かりしてるんです。このままいくと起訴ということになってしまうんですが、まぁ、相手のお嬢さんも公にはしたくないということで、一千万払っていただけるなら、示談にしてもいいと言ってるんですよ」 つづく お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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