カテゴリ:きみに願いを。(詩)
小町と同じクラスなのは幸運としか言いようがない。
俺は盆と正月にもお墓参りを欠かさないから、 きっと俺のご先祖様は願いを聞いてくださったんだ。 おかげで小町と離れなくて済んだ。 席も隣が良かったんだけど。俺は小町の席の斜め後ろ。まあ・・いいか。 小町が授業中に寝たりしないように、見張る毎日だ。 テスト前にノート見せろとか言われて自分の勉強の妨げにならないように・と。 でも・まあ・・・・小町の面倒を見るのは好きなんだけど・・。 「なあ。越野。お前生徒会長の知り合いなの?」 最近親しくなった、近江 錦 が爪をかみながら聞いてきた。 「いいや?なんで?」 「生徒会が、今年度の立ち上げで新入生のお前を抜擢したからさ。 通常は2年と3年が主体らしいから異例なんだって。・・あれ。知らなかった?」 「・・困るよ!生徒会なんて。」 そんなものに関わっていたら小町と一緒に下校が出来なくなる。 小町がひとりで下校? 危なくて、そんなことをさせれないよ。 ボーっとしてるから、変なおじさんに声をかけられたりしたらどうするんだ。 事が起きてからでは済まないんだから。 「発表されているんだから。決定事項だろう?お前が知り合いとかじゃないんなら、 なんで抜擢されたのかね。」 近江の言葉は左の耳から右の耳へ、すうううーと流れていく。 俺は、ずっと小町の後姿を見ていた。 <変なおじさんに声をかけられて連れ去られないように、俺がちゃんと送って帰るんだ。> 小町の横顔に俺はメッセージを発信した。 <事故にあわないように守るんだ。小学校の頃からずっと。これからだって。> ・・でも小町はまた眠そうにあくびをしている。 あわてて生徒会室をノックした。 朝だからまだ誰も居ないかもしれないけど、いても立ってもいられないから。 「どうぞ。」 よくとおる低い声がした。 がらら・と引き戸を開けると年上の先輩っぽい男子が2.3人いた。 「・・ああ。きみは新入生の越野ひかりくんだね。早速挨拶にきてくれたのかい。」 「違います。会長はいらっしゃいますか?」 「ん?俺だけど・?」 おでこ前回のベリーショートの黒髪は全体にチョップカットを施したようで、ワックスでずらしてはねさせている。毛の量も調節しているみたいで黒い髪の割りに重たくない。 一重の切れ長の眼が個性的な髪型を一層際立たせている。 「俺、生徒会には入りたくないんです。撤回してください。」 「へえ?なんで?」 ひとは見たことのない動物を見たときに、きっとこんな顔をするんだろうな・・。 興味深げに見つめてきた。 俺は返答に困っていた。 小町のことをストレートにいえないし・・。 「越野ひかりくん。きみがなかなかの個性をもっていると踏んだからメンバーに入れたんだ。 校則では黒い髪が確かに原則だが、長さは規定していない。 きみのウルフベースのカットされた髪、バックだけパーマをかけているね。 小さいきみの顔型にあわせて縦長に流れるように計算されたカット。 トップにふくらみをもたせるワックスでの跳ねさせ方。 なかなかの個性だよ。 きみのくっきりとした二重を隠すような前髪のスライドカットも見事だ。よく似合う。」 「はあ。それは美容師がいいので。」 「似合うか似合わないか。の問題だよ。 きみは自分自身のよさ・うりを知らないで過ごしてきたんだろう? よく一緒にいる、女の子みたいな子よりもきみのような少しワイルドな感じのほうが、 ここでは 人気があるんだよ。」 「男子校で人気あるといわれても気持ちが悪いです。」 「はっきり言うね。気にいったよ。越野ひかりくん・・ひかりくんと呼んでもいいかい。」 「困ります。」 「それは?あの子にしか呼ばせないとか?」 会長がじっと見てきた。 するっと、知らないうちに、刺されたみたいに。 「・・そうです。俺はあいつの幼馴染なんです。あいつにしか呼ばせないんです。」 「じゃあ。この背中のきらきらとひかる唇の痕は。秋田小町くんの?」 他の人が背中を見ていたんだ。気がつかなかった。 しまった・・。消しておかないといけなかった。惜しいけど。 「・・はあ。今日ちょっと事故りかけて。急ブレーキ踏んでって。・・関係ないでしょう!」 「ふーん?」 会長がすたすたと近寄ってきた。 「あのさあ・ひかりくん。きみは多分・勘違いをしているんだよ。」 「勘違い?」 「この男子校で、危険にさらされているのはきみなんだよ? きみのようなワイルドな髪型・ものいいは どまんなかだよ。 この生徒会で守ってあげようとしてるんだけど。気にいらないのかい?」 自分の容姿のことなんて深く考えたことはなかった。 小町より、俺?なんで? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006/05/01 01:49:20 PM
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