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柊リンゴ

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2008/12/25
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大叔父には若頭しか知らない愛人がいました。
極西の本家からは車で十分程先のマンションに、その愛人を囲っていました。

愛人はカフェを経営しており、そこに大叔父は若頭と数名の男衆を連れていっては、
日頃の緊張した生活のストレスを解消していたのです。

志信さんはおろかアヤも知らないその愛人の存在に、山本組は気付いていました。

普段は鉄壁の守備を誇る極西の本家にいる大伯父ですが、
このときばかりは丸腰です。
勿論、若頭は道具を持っていますが、隙だらけと言っても過言では無いでしょう。

そこに山本組は付け込みました。
「永哉にやらせろ」
組長は道具を持ったばかりの永哉に命じます。
「頭を取って来い」
永哉は一礼すると、すぐに車に乗り込み、そのカフェを目指しました。



銃声が響いたのはそれから二十分後のことでした。
大叔父を庇った男衆を撃ち、外したと気付いた時点で店内に乱射してすぐに逃走しました。



「アヤ、起きろ」
いつになく緊張感がみなぎる空気の中で、アヤは目を覚まします。
「すぐに支度をしろ。置いていくぞ」
志信さんは既にスーツ姿です。
アヤは布団を手繰り寄せて自分の体に巻きつけると、のろのろと歩きます。

「アヤ。何のつもりだ」
「裸なので。出来ればあっちを見ていて貰えませんか」
「今更、何が恥かしいんだ!」
志信さんが呆れて布団を取り上げると、アヤが箪笥の隅に逃げ込んで体を隠します。
「意識しすぎだ。私は遊ぶつもりは無いぞ、早く服を着ろ!」
「…こんなことまでしておいて」
アヤが鎖骨を指しました。
そこには志信さんが付けた跡があります。

「服を着ればわからないだろう!」
「それはそうですけど。何だか冷たい」

「冷たくしているつもりは無い。アヤ、おまえに構っていられないんだ」
「何か、ありましたか?」
アヤは勘のいい子です。
「俺には言えないことですか?」
下着を履きながらアヤが尋ねます。
「現場まで連れられて何も知らなかったでは、済まされないでしょう」
「…そうだが。アヤを巻き込みたくないんだ」
「俺は姐ですよ。組に起きたことなら知らずにはいられません」

アヤは永哉が仕掛けてきたと予想を立てていました。

「あの組には俺の昔の友人がいます」
「は?」
志信さんがアヤにシャツを渡しながら聞き返しました。
「俺が出たほうが、確実に沈静化できます」
「甘い」
志信さんはアヤのボタンをとめながら呟きます。

「極道の争いは、子供の喧嘩では無い」
「でも、多分。いけます」

志信さんは「はあ」と溜息をついてシャツ姿のアヤを腕に抱きました。

「アヤの思うようにことが進めば、全国に極道なんていない」
「そうでしょうか」
「今も、シマ争いが始まっているんだ。アヤ、私の言うことを聞け」
アヤはそれでも不服顔です。
「誰も傷つかずに、終われないんでしょうか」
「何を言い出すんだ。アヤ…おまえは留守番にしよう」
「俺も行きます」
「何処かわかるのか」
「山本組でしょう」

「そのまえに大伯父を迎えに行くんだよ」



永哉が乱射した弾が若頭に当たり、無傷なのは大伯父だけでした。
極西にとっては不幸中の幸いでしたが、永哉は違います。
さんざんな結果に組長は怒りをあらわにして、永哉を木刀で打ちました。
「次だ。次でしとめなければおまえを処分する」
永哉は切れた唇から流れる血を拭いながら、それでもアヤを想います。

何とか、アヤだけは…。
アヤだけは巻き込みたくないと願う永哉に、新しい道具が渡されました。
「二丁持て、とのことだ」
若頭が低い声で告げました。
組を壊してこいと、言われたのです。


笑えるところが無くてすみません。
9話に続きます。
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Last updated  2008/12/25 06:30:45 PM
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