カテゴリ:仙台
霊屋橋を渡って広瀬川沿いに向山にのぼる鹿落の坂。狭くて急な坂だが、バス通りでもあり交通は頻繁だ。坂の途中に鹿落旅館がある。
朝日新聞仙台支局編『宮城風土記1』(宝文堂、1984年)に鹿落旅館のことが出ている。以下に要約する。 ------------ 鹿落坂大断層は10メートル以上の逆断層で地殻変動の貴重な記録だが、ここには、地中深く流れ出す冷泉があり、古くから傷病の薬効で知られる。遠藤宗吉さんが経営する鹿落旅館の内湯に引かれている温泉がそれで歴史は古い。 遠藤さんの妻の話す由来。昔身ごもった鹿が広瀬川を渡って米ヶ袋に水を飲みに行く途中、誤って崖から滑り落ちた。この時、温泉を見つけて傷の治療と安産のためにつかったという。鹿落のシカは、カモシカともシカとも、イノシシとも言われるが。 遠藤宗吉さんが旅館を経営し始めたのは昭和14年。前の経営者は琵琶の師匠さんで、遠藤さんに譲るまで47年間湯治下宿を開いていた。その湯治のトタンの説明板に詳しい由来が書いてあったが終戦直前の大空襲で焼けた。温泉の歴史を知る手がかりは、旅館裏の氏神様だけ。三ザルを彫り込んだ石彫には延宝8年の文字が見える。冷泉と関係あるとすれば少なくとも300年の歴史があることになる。 冷泉の温度は15度前後。温泉法の定める25度に達しないため正式に温泉とは言えないが、仙台市街地にある鉱泉としては唯一だ。 源泉は旅館の裏の地下深くにある。東北大学の鈴木励子助手が53年に調査した。鉄とカルシウム分が多い「鉄鉱泉」。調査後の宮城県沖地震で水量はさらに増え、大半を未利用のまま広瀬川に放流している。 若主人の直美さんに案内してもらい旅館裏の洞穴に入り、約100メートル奥の源泉を訪ねた。真っ暗闇の穴の中をわき水が地中の川となって流れている。水中の鉄分がサビとなって穴の中に1メートル以上も堆積。若主人がスコップで掘り流して源泉に辿り着く。高さ5メートルから勢いよく水が流れ落ちていた。 旅館の温泉は源泉から直接パイプで引いている。そのままが薬効はあるのだろうが、鉄の匂いがきついのと、念のためという保健所の指導で鉄分を濾過して使っている。源泉をそのまま沸かしてくれと言う客の希望に応えて、もう一つ湯船を作ろうと思っている、と若主人。 鉄分の多さは相当のもので、源泉にもぐった日に掘り起こしたサビ泥で、下流一帯が赤濁し県や仙台市に公害だと電話が殺到したほど。 旅館には常連客も多く、大相撲仙台巡業で3つの部屋が常宿にする。 ------------ かつて若い頃、鹿落の坂は、私もよく通っていた。登り切ると料亭の東洋館だが、その下の、坂の中途に鹿落旅館の看板があり、バスの窓から眺めたものだ。 仙台の中心部に歴史をたたえる鉱泉だ。鹿落旅館は、その上の東洋館もそうだが、2年前の大震災で大きな被害を受けたと報じれられていた。今はどうなっているのだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2013.11.24 19:40:26
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