カテゴリ:国政・経済・法律
前回(下記)に続く記事です。
■石巻殺傷事件の実名報道を考える(2016年6月16日) 新聞や放送メディアが、死刑判決確定を契機に実名報道に転じたことに、どうも割り切れない感覚を持っていたが、『週刊新潮』(6月30日号)が解説している。これまでも少年事件について実名報道をしている同誌の立場から、一律横並びで思考停止に陥っている大新聞各社を批判するもので、紹介されている識者のコメントを含めて、大変興味深い。 そのポイントは以下のようだ。 ------------ 毎日新聞と東京新聞を除いて、大新聞はすべて実名で報道。これまで少年法を錦の御旗にその不備を批判してきた大新聞が、他方で死刑確定を理由に自ら少年法の壁を乗り越えているというのは奇妙であり、矛盾だ。非常に冷酷な犯行であり、(新潮としても)実名報道は否定しないが、問題は、各メディアが横並びで同じ対応をすること。その理由は何で、それは妥当なのか。 〔おだずま注:読売も実名報道。前回記事で当日の読売ネット版は匿名と書いたが、翌朝の紙面ではやはり実名報道で、実名とする理由が添えられていた。〕 高山文彦氏(作家)〔おだずま注:高はハシゴ〕 ・(氏はかつて堺市シンナー少年通り魔事件で、『新潮45』で実名報道を行い、少年からプライバシー権侵害で訴えられ、勝訴している。) ・少年の生い立ちや生育暦を調べた上で事件の重大性を考慮して実名を報道するのならわかる。 ・しかし死刑確定だから出すというベルトコンベヤ式では、事件や犯人そのものをみて判断しておらず適切でない。 田島泰彦氏(上智大学教授) ・メディア本来のあり方は、死刑確定かどうかは実名報道に関係ない。 ・その犯罪が重要で実名を知らせるべきと思えば、報じれば良いこと。 ・死刑判決あったとか更生可能性なくなったという理由で画然と実名にするのは、あまりに機械的。思考停止だ。 高橋正人氏(犯罪被害者等支援弁護士フォーラム(VSフォーラム)) ・今回の実名報道は加害者の立場に偏り過ぎている。 ・更生可能性を考慮し、それがないから実名に踏み切った。 ・一方で、被害者にはそれだけの配慮したか。 ・2004年に犯罪被害者等基本法が成立。 ・この事件でも加害者の名を出す慎重さに比べて、被害者は何も論じられることなく名を出されていた。 ・加害者こそ実名にすべきで、被害者は匿名にして欲しい。 元少年の犯行は、氏名や更生のレベルをはるかに超えている。いまさら社会復帰の可能性を論じること自体、滑稽だ。まして死刑確定したから実名との理由に至っては、死刑囚が国家の犠牲者であるとのスタンスすら言外に伝わってくる。加害-被害認識の転倒ぶりが感じられる。 そもそも少年法61条には、死刑確定したらとの規定はない。つまり、新聞社は独自の法解釈で実名報道しているだけ。 では、これまで同種の判断を行ってその都度実名で報じた媒体に対しては、彼らはどう論じているのか。 〔おだずま注:実名報道した新潮に対する各紙の論調ということだ。〕 堺市事件に対する各紙の論調(1998年2月) ・ひとりよがりな法への挑戦(読売、社説) ・あざとい言い分。法律の規定を勝手に曲げて更生の芽を摘む権利は誰にもない(朝日、社説) ・少年法に反し容認できない(産経、主張) 各紙とも法に触れる〔ママ〕こと自体が悪いと言わんばかり。一方では自ら同様のこと〔おだずま注:結局実名報道していること〕しているのだから、ご都合主義だ。 石巻の件では、毎日と東京が匿名を続けている。更生に向かう姿勢があること、再審や恩赦の可能性、を理由としている。何が何でも少年法墨守の姿勢は首肯できないが、少なくとも論理の一貫性はあるだけ骨がある。 徳岡孝夫氏(元毎日新聞社会部) ・1958年小松川高校事件が典型だが、かつて新聞社は未成年容疑者でも、場合により、逮捕時から自らの判断で実名報道した 永山事件では、多くの新聞が逮捕時から独自の判断で実名報道。浅沼委員長刺殺、中央公論社長宅襲撃では、死刑にする案件でもないのに実名を用いた社もある。しかし、80年代にはこの流れは消え失せ、少年犯罪はほぼ匿名になった。 ・市川一家4人殺人(1992)→ 逮捕、刑確定を通じて匿名 ・大阪愛知岐阜連続リンチ殺人(1994)→ 毎日、東京以外は、横並び。死刑確定時に実名。 ・光市母子殺害(1999)→ 同上。 ・今回の石巻事件も。死刑確定時に実名が一般化。 田島教授は「少年法にメディアが違反すると抗議され、裁判で損害賠償の対象にもなりうるから、実名で報じない。報じるとしても死刑が確定してから、という面倒を回避する発想に向かっているのでしょう」という。 名前を消したり出したりの「人権遊戯」。思考停止、ご都合主義、事なかれ主義だ。 ------------ ところで、朝日新聞は昨日、この元少年と記者が面会したとして記事にしている。「死刑は予想して、納得もしている」。実名報道したことについては、「国家によって生命奪われる刑の対象者は明らかにすべき。被害者にとっては少年でもおじさんでも同じだ。ただ、自分の家族に困ることがあるかも。」と語ったという。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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