徒歩5分のライバル
昨日のそばまつりのあと、真っつぐ家へ帰らず、鹿沼のYJ宅に1泊したワケ。それはもちろん!親も同様のYJ夫妻にあうためですが、半分はお仕事のためであります。そうです。恒例になりました「酒蔵」取材であります。このところ、地元千葉県の酒蔵を中心に取材をしてましたが、今回はよい機会なので、栃木県の酒蔵へ行こうという訳であります。今回は期間中、滞在していた今市の「ホテルつたや」の並び、商店街の中にある、天保13年創業の「渡邊佐平商店」へ伺いました。そばまつり初日の夜、夕飯までにすこし時間があったので、歩いてすぐの渡邊さんへ伺ったのであります。その時の対応のよさ、ご熱心さに心打たれ、今回はこちらに伺おうと改めて取材の申込みをしたのであります。こちらは予約をすれば、一般の方の蔵見学を受け入れられており、また杜氏さんのいらっしゃる時季は「日本酒大学」という見学勉強会も開催されています。今日は11時から見学の方がいらっしゃるということで、9:30にお邪魔しました。今週から仕込みが始まるということで、岩手から南部杜氏の高橋杜氏一行も蔵へ入り、仕込みの準備に大忙しであります。こちらの蔵は商品の85%が純米酒、他は酒取(もちろん純米酒)焼酎という、全部が「純米」にこだわった酒造りをされています。まず、見学に見えたお客様には、どういう点に着目した酒選びをすればよいかということから説明されるそうです。「ラベルの名称ではなく、その裏や脇に書かれている原料を見て頂きたい」といってお話するのは専務の渡邊さん。また、お酒そのものの説明だけではなく、お酒の文化というものも紹介してくださる。「『水入らず』という言葉がありますね。これは、「洗盃」という酒の文化からきている言葉なんです。「洗盃」とは仲間で酒を酌み交わす時、自分が飲んだ盃を器にはられた水ですすぎ、相手に盃を渡すというルールなのですが、親や兄弟、夫婦など、「洗盃」をしなくてもよい仲のことを「盃を洗わない仲」=「水がいらない」=「水いらず」ということになります。また、親兄弟でなくても、同等に親しい間柄の場合なのに、「洗盃」をしたとします。そうすると、酒臭いはずの盃が水臭いということで『水くさい』という言葉が生まれました」。また、店先には、樽に詰められたお酒がゆっくりと揺らされているじゃありませんか。これは、その昔、上方・灘の酒を船で江戸に運んだ「下り酒」が、江戸に到着する頃、まろやかでとても美味しい酒になっていたという話をヒントに、杉樽にいれたお酒を二昼夜、水車を動力にゆっくりと揺らして、まろやかにさせた「樽まろ」という商品を造ってるのであります。二昼夜というのは、いろいろ試した結果、この二昼夜にたどり着いたそうですが、これ以上だと、樽の香りがつきすぎてしまい、以下だとまろやかさが弱いそうです。そして、なんといってもラッキーだったのが、今月来られた南部杜氏の高橋杜氏の酒造り唄を渡邊専務のはからいで拝聴できたのであります。70代とはとても思えない、高橋杜氏の肌つや・姿勢のよさ。毎晩の晩酌は欠かさないという高橋杜氏。健康の秘訣はこの晩酌と唄。「腹から声だしますからね。これを唄えなきゃ、蔵人とはいえないですよ。この唄を唄うことで、時間を計るっていうこともありますが、この唄が酒にいい波動を伝えて、発酵がうまくいくんですよ。最近はクラシックをきかせるとこもあるでしょ。それはこの「酒造り唄」が元なんですよ」。と南部なまりがまた耳に心地よい。酒取焼酎もこだわっていて、国産米でお酒を造り、そのお酒を蒸留させて焼酎を造るのである。「純米にもこだわりますが、原料すべて純国産にこだわっています」。全て廻り終わり蔵を後にしようとした丁度その時、一台の大型バスが駐車場へ入ってきました。11時に約束の見学者をのせたバス。降りてこられたのは、大勢のおばあちゃま達であります。みんな楽しそうに蔵の中へ入られていきました。さて、渡邊酒造さんを後にしたあたしは、もう1軒の酒蔵に向かったのであります。渡邊酒造さんをでて、日光方面へむかい、今市IC入口の交差点を右折。だいや川公園へ向かった右手にある「片山酒造」さんであります。渡邊酒造さんからは徒歩でも5分程。正に「目と鼻の先」であります。入口には「柏盛 原酒」と「酒ケーキ」の大きな看板。そばまつり期間中はお客様で混んでいて立寄ることができませんでした。今日はとても静かな時間が流れている店内にお邪魔しました。冷蔵ケースには、看板商品「柏盛 原酒」や限定商品などが並んでおり、限定商品には、予約の札がいっぱい貼られています。看板にもあった酒ケーキは2種類のサイズがあり、他の酒蔵さんに比べ、酒ケーキが多く並べられているのが、きになります。「いらっしゃいませ」と奥の事務所から出てこられたのは、片山酒造さんのご主人、片山社長。「近くに2軒あると、ライバル的存在ですね」と伺ったところ、「渡邊酒造の専務とは歳もあまり変わりませんし、小さい頃から遊んでました。お互い酒蔵ですが渡邊さんとは規模も違いますし、販売方法も違うので、いい意味でお互いが切磋琢磨していけますね」と片山社長。そう、純米酒専門の渡邊酒造さんに対し、片山酒造さんは本醸造を主体としている。これは創業当時から本醸造にこだわり続け、多々のブームがあっても変える事をしなかった片山酒造さんのこだわりなのである。また、生産石数も渡邊酒造さんが480石に対し、片山酒造さんは200石。販売方法はこの酒蔵での販売が8割をしめ、残りは近くの店などに卸しているのみ。ということで、お中元・お歳暮の頃は配送手配だけで手がいっぱいとなってしまうので、通常11月から仕込みをはじめる蔵が大半の中、仕込みは年明け1月から越後の「のずみ」杜氏の手による仕込となる。片山酒造さんへはまた改めて2月頃に取材に伺うことになったのだが、片山社長のご厚意により蔵内を少し拝見させて頂く事ができました。搾りは、佐瀬式の槽でゆるめに搾る。その結果、とても味わい深い酒粕ができるという。杜氏は越後の野積(のずみ)杜氏。数少なくなった野積杜氏の元、醸しだされたお酒は地元を訪れるファンにこよなく愛されている。「日光にきたら、どこどこの漬物買っていこう、どこどこの饅頭買っていこうという風に、『柏盛の酒買っていこう』という風になればなと思っているんです。地元にこなければ買うことができない、だから買っていこうという風に」。そして、他の酒蔵さんよりはるかに広い面積に陳列されている酒ケーキについて伺ってみた。「うちは20年以上前からこの酒ケーキを造っているんです。パイオニアだと思っております。実は、3年前に亡くなった先代がまったくお酒が飲めず、お酒が飲めない人でもお酒を楽しめたらということで、お向かいのケーキ屋さんと共同開発で造ったんです。今では、贈り物にということで毎回ご注文頂くこともあります。実は私も下戸なんですよ(笑)。だからこそ、『柏盛の酒を』『柏盛のケーキを』という風になっていただけたらと思っております。生意気なようですが、ライバルは和菓子屋さんやお漬物やさんだと思っているんです」。そのお話を伺うと、酒ケーキの数の多さも納得であり、食べてみて更に納得でありました。対照的な2つの酒蔵でありましたが、どちらにもいえることは酒造りに信念をもっていること。そして、1人でも多くの方に、それは文化であったり、酒とは違う製品であったり、歴史であったりといろんな視点からお酒の世界に興味を持ってもらいたい、触れてもらいたいという気持ちが表れているというのが、とても感じました。日光・鬼怒川へお越しの際には、散歩がてら、2軒を梯子してみるのもいいですよ