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「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」(原題:Lion)は、2016年公開のオーストラリア・アメリカ・イギリス合作のドラマ映画です。サルー・ブライアリーのノンフィクション「25年目の『ただいま』 5歳で迷子になった僕と家族の物語」を原作に、ガース・デイヴィス監督、ルーク・デイヴィーズ脚本、デーヴ・パテール、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンら出演で、5歳の時にインドで迷子になり、養子としてオーストラリアで育った青年が、幼い頃の記憶を辿りながらグーグル・アースで故郷を探り当て、25年ぶりに母と再開する姿を描いています。第89回アカデミー賞では、作品賞、助演男優賞(デーヴ・パテール)、助演女優賞(ニコール・キッドマン)、脚色賞、撮影賞、作曲賞の6部門にノミネートされた作品です。
「LION/ライオン 〜25年目のただいま〜」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:ガース・デイヴィス 脚本:ルーク・デイヴィーズ 原作:サルー・ブライアリー/ラリー・バットローズ 「25年目の『ただいま』 5歳で迷子になった僕と家族の物語」 出演:デーヴ・パテール(サルー・ブライアリー、主人公) サニー・パワール(幼少期のサルー) ルーニー・マーラ(ルーシー、サルーの恋人) ニコール・キッドマン(スー・ブライアリー、サルーの養母) デビッド・ウェナム(ジョン・ブライアリー、サルーの養子) アビシェーク・バラト(グドゥ・カーン、サルーの兄) ディヴィアン・ラドワ(マントッシュ、ブライアリー夫妻のもう一人の養子) プリヤンカ・ボース(カムラ・ムンシ、サルーの実母) ディープティ・ナヴァル(ミセス・スード) タニシュタ・チャテルジー(ヌーア) ナワーズッディーン・シッディーキー(ラマ) ベンジャミン・リグビー(ウェイター) パラビ・シャーダ(プラマ) サチン・ジョアブ(バラット) ほか 【あらすじ】 オーストラリアで幸せに暮らす青年サルー・ブライアリー(デーヴ・パテール)は、インド生まれで5歳のとき迷子になり、家族と生き別れのままオーストラリア人夫婦の養子となり、タスマニアで育ちました。大人になった彼は、おぼろげな記憶とグーグル・アースを手がかりに、生まれ故郷を探し始めます・・・。 【レビュー・解説】 生まれ故郷のインドで迷子になり、オーストラリアで養子として育った青年が、探し当てた故郷で25年ぶりに家族と再会する実話を描いた作品で、養子になる前のインドでの暮らしをじっくりと描き、豪華キャストが出演するオーストラリア時代で物語に深みを与え、序盤の回想を折り込みながら怒涛のクライマックスになだれ込む、劇的な構成の感動作です。2011年、成長した息子と実母、養母の三人が会うまでのドキュメンタリーを60ミニッツ・オーストラリアが制作、三人がインドで抱き合うシーンを撮影したガース・デイヴィスが感動も冷めやらないまま本作の監督を務め、エンディングに流れる当時のアーカイブ映像が本作の感動をより深いものにしています。パワハラ、セクハラで物議を醸しているハーヴェイ・ワインスタインが共同制作と米国での配給を手がけた作品でもあります。 実話の豪華キャスト、劇的構成で実現した感動作 感動的な実話をサンドイッチ構造で劇的に演出 十分に感動的な実話ですが、デイヴィス監督はこのストーリーを、
これは何かを思い出す物語じゃない。サルーはすべてを覚えているんだ。彼は迷子になっただけなんだ。彼は故郷を見つける希望も術も持っておらず、自分の人生を受け入れていたんだ。(ガース・デイヴィス監督) 序盤は充実のインド時代、5歳の子役が大活躍 序盤から見応えがあります。幼い頃のサルーを演じた当時5歳のサニー・パワールが、中盤に登場するデーヴ・パテール、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンといったスター俳優顔負けの大活躍です。迷子になったサルーと同じ年齢の子役を起用したわけですが、実は小学校にも通っていない子供に演技指導するのは至難の業で、デイヴィス監督は多くの人に「幼く見える8歳の子供を使え」と言われたそうです。しかし、5歳と8歳は違うとこだわった彼は、サニーの為に、
中盤のオーストラリア時代は物語に深みを与える 中盤は、サルーの生まれ故郷の荒涼とした風景やコルカタの喧騒から一転、静謐で美しいオーストラリアのタスマニアで始まります。ここで養父母、もう一人の養子のマントッシュとの出会いが描かれ、さらに舞台は都会のメルボルンに移り、恋人のルーシーやインド人留学生と出会ってグーグル・アースで故郷を探し始めます。また、サルーとマントッシュやルーシーとの軋轢や、義母の葛藤なども描かれ、物語に深みを与えています。中盤はデーヴ・パテール、ルーニー・マーラ、ニコール・キッドマンといった大スターが目白押しですが、マントッシュとルーシーを描き切れていない気がします。中盤では、サルーの欠点も描かれていますが、スピード違反で一晩中、警察から逃げ回った話や、友人と一種にパーティから双子の姉妹をお持ち帰りした話も割愛されており、いずれも限られた時間内では止む得ないことかもしれません。 終盤は序盤の回想を交えた怒涛のクライマックス クライマックスは圧巻です。 <ネタバレ> 広いインドを、5年間、延べ一万時間近く捜しても見つからず、挫けそうになるサルーですが、とうとう兄と生き別れになった駅を見出し、そこから生まれ故郷の川や駅、自宅を捜し当てていきます。グーグルが制作協力、当時の衛星画像へのアクセスと技術サポートを提供し、これに実写や序盤で映し出されたインドの風景の回想を交えながら、巧みな編集でぐいぐいと惹きつけていきます。捜し当てた故郷での実母との再会が感動的です。言葉が通じない二人の触れ合い、抱き合い、そして涙がすべてを語る演出です。最後に映し出されるサルーと養母、実母の三人が会い、抱き合うドキュメンタリーの記録映像も感動的です。本作が故郷を探し当てたサルーだけの物語ではなく、実母と養母、二人の母の物語でもあることを象徴する見事なエンディングです。 <ネタバレ終わり> 余談1:5歳の記憶で故郷を探し当てられのか? 私事で恐縮ですが、私も同じ年齢の頃に迷子になったことを思い出しました。長い間、思い出すこともなく、また、どこで迷子になったのかも思い出せなかったのですが、試しに分かっている場所からグーグル・アースで道を辿ってみました。驚いた事に、道を追っているうちに様々な記憶が鮮明に甦り、すっかり忘れていて地名やバス停の名前まで生々しく思い出しました。さらに公園があったことを思い出し、マップはそれが神社の境内であることを示していました。私が鮮明に思い起こした映像そのものであることをストリートビューで確認し、記憶が持つ不思議な力に驚きました。すべて記憶していたと、サルーはインタビューで答えていますが、実際、その通りなのではないかと思います。難点を言えば、インドではストリートビューがほとんど効かないので、実際の視点ではなく、俯瞰図でしか確認できないことです。この点について、サルーは付近が撮影された旅行のビデオなどを YouTubeで検索し、映像を確認したようです(映画では割愛されている)。 私もグーグル・マップを利用してよく撮影地巡りをしますが、何よりもサルーが凄いのは、実際の視点(ストリートビュー)で見れないというハンディキャップと、風景が変わっているかもしれないという不安に抱えながら、五年間、延べ一万時間近くも広大なインドを捜し続けたことです(さらに、探し当てた場所は、列車に乗った時間から割り出した当初の探索範囲の外であることを、映画は示唆している)。これは並大抵のことではありません。あまりに熱中した為、5年の間に三人のガールフレンドと別れることになったそうです。寂しい思いをさせたくないと養父母には内緒にしていたそうですが、生まれ故郷を見つけたい、家族に会いたいという強い思いがなせる技ではないかと思います。 余談2:映画の力とウェインスタインの力 本作の脚本には、実話に裏打ちされた力があります。主役のデーヴ・パテールは、これまでの読んだ中でベストの脚本だと言います。パワフルな脚本に惹かれたルーニー・マーラは、デイヴィス監督と二分話しただけで、休みを返上して出演する気になったと言います。ニコール・キッドマンは、実際の養母、スー・ブライアリーに指名されての出演です。スー同様、二人の養子を持つニコール・キッドマンは、スーの自宅を訪ね、養子への愛について意気投合したと言います。インディーズ映画である本作がこのような豪華なキャスティングを実現できたのは、脚本の力が大きいと言えます。サルーが故郷を発見、実母と再会したのが2011年で、この年に60ミニッツ・オーストラリアがドキュメンタリーを制作します。書籍化、映画化もかなり早い段階で決まり、書籍版「25年目の『ただいま』 5歳で迷子になった僕と家族の物語」は2013年に刊行されました。しかし、アメリカの制作会社から決まって舞台をアメリカに変えるように要求を受け、これを拒否し続けた為、映画の制作は難航しました。 これに決着を付けたのがハーヴェイ・ワインスタインです。2014年5月、彼はキャストが決まる前に本作の全世界の配給権を1200万ドルで購入すること発表しました。ドキュメンタリー映画「ハリウッドがひれ伏した銀行マン」(2014年)にも描かれていますが、このように収入が保証されることはインディーズ映画の資金調達に大きく貢献します。いくら脚本が素晴らしくとも、資金が集まらなければ、映画は実現しません。かくして話は一気に前に進み、2015年1月にはインドで撮影を開始、同年4月にはルーニー・マーラとニコール・キッドマンをオーストラリアで撮影します。一方、ワインスタインは2015年のカンヌ映画祭で制作中の映画としてデモを行います。また、インドでは年間8万人の子供が行方不明になり、1100万人の子供たちが路上で生活していると言われますが、ワインスタイン・カンパニーは他の製作会社と連携してインドのストリート・チルドレンを救うチャリティ・ネットワークを設立します。2016年11月のアメリカでのプレミア上映には妻ヒラリーの大統領選以降、初めて公の場に顔を出すビル・クリントン前大統領が出席、第89回アカデミー賞では、作品賞、助演男優賞(デーヴ・パテール)、助演女優賞(ニコール・キッドマン)、脚色賞、撮影賞、作曲賞の6部門にノミネートされ、興行面でも制作費1200万ドルに対して全世界で1億4000万ドルの興行収入を生み出す、大成功を収めます。 本作のアカデミー賞の6部門ノミネートについては、ヒット・メイカーであるワインスタインの影響を指摘する人がいます。ノミネートに値する作品であることは間違いありませんが、実力があって当たり前のこの世界は運が大きく成否を左右すると言います。いくら脚本が良いとは言え、もしワインスタインが収入を保証しなければ、この映画はこのような形では実現しなかったかもしれません。もちろん、ワインスタインもどんな映画でも無闇に保証するわけではありません。彼が制作や配給を手がけた作品の一覧を見て、改めてその目利きの力に驚きました。しかし、ワインスタインは長年に渡るセクハラ、パワハラに関して社会的制裁を受けつつあり、その責任を問われて自らが作った会社であるワインスタイン・カンパニーを解雇されてしまいました。 ジャーナリストの山口氏と詩織さんの泥仕合も記憶に新しいのですが、実力があって当たり前、コネが物言うメディア業界では「水心あれば魚心あり」的な部分があるような気がします。映画「誘う女」(1995年)にも強烈な風刺がありますが、女優のミッシェル・ファイファーは最近のインタビューで「ハーヴェイ・ワインスタインだけではなく、映画の業界構造の問題」と言い、同席した別の女優は「被害にあった女性はすべて20代で、彼女らは意図的に被害者になった」とも言います。ワインスタインをかばうわけではありませんが、どこまで「魚心と水心」でどこから反社会的行為なのかは微妙です。ワインスタインはあまりに派手に、強引にやり過ぎたのででしょう。以前は被害女性がクウェンティン・タランティーノなどの大物に訴えても、逆に女性が諭されたと言いますが、これだけ事が大きくなると、もはや誰もワインスタインをかばうことができないでしょう。本作でデーヴ・パテルを気に入ったワインスタインは彼の次作「Hotel Monbai」(2018年)の配給権を獲得しており、また本作と同じデイヴィスが監督、ルーニー・マーラが出演する「Mary Magdalene」(2018年)の配給権も獲得しています。もちろん、彼個人としてではなく、ワインスタイン・カンパニーとしての話でしょうが、ワンマン・カンパニー故、その将来も懸念されています。配給権の譲渡などもあり得る話かもしれませんが、キャストや制作関係者にとって不運なことを願っています。 デーヴ・パテール(サルー・ブライアリー、主人公) サニー・パワール(幼少期のサルー) ルーニー・マーラ(ルーシー、サルーの恋人) ニコール・キッドマン(スー・ブライアリー、サルーの養母) デビッド・ウェナム(中央、ジョン・ブライアリー、サルーの養父) ディヴィアン・ラドワ(マントッシュ、ブライアリー夫妻のもう一人の養子) アビシェーク・バラト(グドゥ・カーン、サルーの実兄) プリヤンカ・ボース(カムラ・ムンシ、サルーの実母) 【動画クリップ】
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2017年11月10日 05時00分06秒
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