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「ヒトラーの忘れもの」(原題:Under sandet)は、2015年公開のデンマーク・ドイツ合作の歴史ドラマ映画です。史実に触発され、マーチン・サントフリートの監督・脚本、ローランド・ムーラーら出演で、ナチス・ドイツの降伏後、デンマークの地雷の撤去に駆り出された捕虜のドイツ少年兵と、ナチスへの憎しみと無垢な少年たちとの間で葛藤するデンマークの指揮官を、当時実際に地雷が埋められていた海岸を舞台に描いています。第89回アカデミー賞外国語映画賞のデンマーク代表に選出された作品です。
「ヒトラーの忘れもの」のDVD(楽天市場) 【スタッフ・キャスト】 監督:マーチン・サントフリート 脚本:マーチン・サントフリート 出演:ローランド・ムーラー(ラスムスン軍曹) ミケル・ボー・フォルスゴー(エベ大尉) ルイス・ホフマン(セバスチャン・シューマン) ジョエル・バズマン(ヘルムート・モアバッハ) エミール・ベルトン(エルンスト・レスナー) オスカー・ベルトン(ヴェルナー・レスナー) レオン・サイデル(ヴィルヘルム・ハーン) ほか 【あらすじ】
【レビュー・解説】 ナチス・ドイツがデンマークに敷設した地雷を捕虜のドイツ少年兵に処理させていたという驚きの実話に基づき、ドグマ95の流れを組むデンマーク映画らしいシンプルで力強いプロットとリアルな映像で地雷処理の現場をスリリングに描く一方で、地雷処理を指揮するデンマーク軍の軍曹のナチス・ドイツへの激しい憎悪が捕虜の少年兵たちとの交流を通して彼らへの赦しへと変わっていく様を描いた、スリリングで感動的なヒューマン・ドラマ映画です。 捕虜のドイツ少年兵が危険な地雷除去作業を強制されていた ドイツ人が埋めた地雷をドイツ人に処理させるというのは、一見、合理的なようですが、
は、人道的に大きな問題と言えます。本作で描かれているドイツ人捕虜の待遇は、当時のジュネーヴ条約(1929年調印)の、
といった条項に抵触しますが、第二次世界大戦では、デンマークはドイツの侵攻開始後数時間で抵抗らしい抵抗もしないまま降伏、ドイツの保護下に入っており、ジュネーヴ条約の大前提である「交戦国」ではない為、条約が適用されないという抜け道がありました。余談になりますが、昨今、何かと話題になる日本の自衛隊員は、紛争当事国の戦闘員ではないので、ジュネーブ条約の「捕虜」には該当しません。これは有事の際に必ずしも非人道的な扱いを受けることを意味するものではありませんが、覚えたおいた方が良いかもしれません。アメリカではテロ対策の一環で、アメリカの国内法が及ばないグアンタナモ強制収容所で拷問が行われましたが、有事の際のこうした脱法行為はあり得ないことではありません。 デンマークと列強との微妙な関係 ヴァイキング時代からの植民地、グリーンランド、アイスランド、フェロー諸島に加えて、海上帝国としてインドへ進出、その後も西アフリカ沿岸、新大陸の西インド諸島などの植民地化に成功するなど、17世紀から18世紀にかけて、デンマークは海運の隆盛期、黄金時代迎えます。バルト海での覇権を失いながらも、イギリス、オランダなどの海軍強国との友好関係を築き、外洋との繋がりを保った事がデンマークの国力維持に繋がったわけですが、19世紀に入ってイギリス帝国と袂を分けたデンマークはその艦隊を撃破されます。ナポレオン戦争の敗戦国となってノルウェーを失い、海外領土はイギリスに占領され、艦隊も没収され、海上貿易も失い、1917年までに植民地をアメリカ、イギリスに売却したデンマークは、ヨーロッパの小国となりました。 ドイツと同じゲルマン民族であり、第二次世界大戦では無抵抗まま占領を受け入れたことで、ヒトラーはデンマーク政府の存続を認め、デンマーク王もドイツ占領下のコペンハーゲンに留まりました。デンマーク自由師団と呼ばれる義勇兵団が独ソ戦に参加させられるなどの対独協力を強いられたこの時期のデンマークは「モデル占領国」と評されることもあります。しかし戦局が枢軸国側に不利になった1943年、さらなる対独協力をデンマーク政府が拒否したため、ドイツ占領軍は戒厳令を布告、デンマークを直接統治します。ユダヤ人の移送も開始されましたが、市民の協力によって99%がホロコーストから逃れることができたと言われています。1945年5月、デンマーク駐留のドイツ軍が降伏し、占領は終結します。デンマーク政府は連合国と交渉することはできませんでしたが、連合国の一員として認められ、国際連合の原加盟国となります。 本作の主人公ラスムスン軍曹は、デンマーク軍の軍曹ですが、イギリスの空挺部隊の制服を着ており、また、中盤にはイギリス兵がドイツの少年兵たちを虐待、ラスムスン軍曹が懸命に制止するシーンがあります。これらはデンマークがイギリス軍の強い影響下にあったことを示唆しています。イギリス軍は、ドイツへの復員を待つ者たちの中からドイツ製の地雷に詳しい工兵を選び、彼らを監督するデンマーク将兵から成る地雷特務部隊を結成、ここに「故国に捨てられたドイツ人」も加えます。この部隊に属したデンマーク将兵は、大戦中にイギリスへ渡ってドイツ軍への反攻に向けて訓練されていた者が多く、本作のラスムスン軍曹がイギリスの空挺部隊の制服を着ているのもその為です。イギリス軍はこのように息のかかったデンマーク将兵を登用しながら、ドイツへの復員を待つドイツ人捕虜たちに地雷除去を強制していたのが実態です。デンマークはドイツの保護下にあり交戦下にはなかったため、こうしたドイツ人捕虜による地雷除去に1929年に締結されたジュネーヴ条約が適用されることはありませんでした。 何故、これまで語られなかったのか、何故、今、語られるのか 本作のテーマは明確で、「目には目を」という復讐の心理にとらわれるのではなく、人間としての良心に従った行動の必要性を説いていますが、何よりも興味深いのはこの映画で描かれている地雷除去の話はデンマークの歴史書では扱われておらず、冷戦が終結した後の1998年に、Helge Hagemann(ヘリェ・ヘーイマン)が「Helge Hagemann: Under tvang」(強制の下で)という本を出版されたことでようやく白日の下にさらされました。 こうした史実が、長い間、表に出てこなかった背景には、
がありそうです。 第二次世界大戦以降、長く続いた冷戦構造が終焉、旧ソ連が崩壊、世界はアメリカ一強の時代になる中、デンマークにも他国との関係の中で自らが加担した非人道的行為を振り返る余裕が出てきたのかもしれません。デンマークのマスコミや世論は自らが抱える地雷問題の把握と解決に意識的になり、2005年にはデンマーク政府が第二次大戦中の地雷が残されていることを認め、地雷の調査と除去にあたることが約束されます。デンマークは対人地雷を全面的に禁止する条約オタワ条約を批准しており、その作業は国際法で求められるものですが、そこには、
姿勢が見られます。 9.11同時多発テロや中国の台頭により、近年、アメリカ一強神話が崩れつつあり、中東やアフリカからの難民がアメリカや欧州の経済を脅かし、極右勢力の台頭を許していますが、皮肉もこれが本作の価値をより高めているようでもあります。実のところ、本作が描いている憎悪と復讐、寛容と和解は、第二次世界大戦の後処理に限った話ではなく、人類が繰り返してきた普遍的なテーマです。
ローランド・ムーラー(ラスムスン軍曹) ローランド・ムーラー(1972年〜)はデンマークの俳優。「R」(2010年)、「シージャック」((2012年)、「Nordvest」(2013年)、「アトミック・ブロンド」(2017年)などに出演している。本作が初主演作だが、ナチス・ドイツへの激しい憎悪が捕虜の少年兵たちへの赦しに変わっていくさまを見事に演じている。 ミケル・ボー・フォルスゴー(エベ大尉) ミケル・ボー・フォルスゴー(1984年〜)は、デンマーク出身の俳優。ナショナル・シアター・スクール在学中に映画デビュー作となる「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」(2012年)でクリスチャン7世を演じ、第62回ベルリン国際映画祭銀熊賞(男優賞)を受賞、世界に知られるようになる。本作ではラスムスン軍曹とは対照的な上司を冷徹に演じ、見事な存在感を醸し出している。 ルイス・ホフマン(セバスチャン・シューマン) ルイス・ホフマン(1997年〜)はドイツの俳優。「僕の世界の中心は」(2016年)などに出演している。 ジョエル・バズマン(ヘルムート・モアバッハ) ジョエル・バズマン(1990年〜)はチューリヒ出身のスイスの俳優。「ハンナ」(2011年)などに出演している。 エミール・ベルトン&オスカー・ベルトン(エルンスト・レスナー&ヴェルナー・レスナー) エミール&オスカー・ベルトン(1999年〜)は、ハンブルク出身のドイツの俳優。双子である彼らは共に演技経験がなく、本作がデビュー作だが、演技スクールに入学して1週間ほど経った頃、スクールの推薦を得てオーディションで本作の役を勝ち取っただけあって、天性ともいえる良い味を発揮している。 【撮影地(グーグルマップ)】
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Last updated
2017年11月29日 05時00分07秒
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