『茂山狂言会』 沙沙貴神社奉納狂言(9/25)
沙沙貴神社 『茂山狂言会 奉納狂言』 ◆平成23年9月25日(日) 午後1時より ◆滋賀県近江八幡市安土町 沙沙貴神社 拝殿 ★「解説」 網谷正美 ★「千鳥」 茂山千五郎 茂山正邦 佐々木千吉 ★「しびり」 茂山竜正 茂山虎真 ★「水掛聟」 茂山七五三 茂山茂 山下守之安土町の沙沙貴神社で茂山千五郎家の狂言会(観覧無料)が催される新聞記事を見つけ、先日(25日)行って来ました♪沙沙貴神社。。とっても立派な神社でした。名前は前々から知っていたけど(「なんじゃもんじゃ」の木に花が咲くとニュースになります)、こんな厳かな佇まいの神社とは思ってもみなかったです。狂言が行われる拝殿の前には床机がたくさん並べられて、既にたくさんの観客でほぼ満席。ひとつ空いている席を見つけて無事着席。まだ20分くらい前だったのですが、ドンドンお客さんが増えて立ち見の方も多かったです。あまり宣伝されてなかったので、「空いているんじゃないか」と私は高を括ってましたが大きな間違いでした。みなさん、どこで情報仕入れてこられたのかな~? やっぱり、無料っていうのは何にも変えがたい魅力ですよね。では、演目の感想などをば。。★「解説」 沙沙貴神社の紋と千五郎家の家紋が同じ『四ツ目紋』(上部画像、赤い垂れ幕の中央にある紋)でして、今の茂山千五郎家のご先祖様の元の姓は「佐々木」なんだそうです。芸を見込まれて茂山の家に養子に入られたのが、初世・千作さん(9世茂山千五郎正虎)。この沙沙貴神社は全国の「佐々木源氏」発祥の地という事で、「四ツ目紋」を掲げた佐々木姓の蔵元が栃木県にあると解説に立たれた網谷さんが仰っていました。今、千五郎家には茂山姓の狂言師が12名、網谷さんのような門下が10名。全部で22名の狂言師が活躍されているそうです。大所帯ですね~。千五郎さんのお孫さんも順次、初舞台を披いているし、ホント将来も安泰ですよね。その千五郎さんの双子のお孫さん。正邦さんのお子様の「竜正くん」と「虎真くん」の狂言が見れるというのが、この狂言会の魅力の1つでした。この双子ちゃん。もう小学1年生になっているんですね! いや~。ビックリ。いつの間に大きくなったんだ~。って感じ。網谷さんの解説の中で萬斎さんチのお話がちょっと出ましたよ。「東京に野村家という狂言の家があります。あちらは和泉流ですが、そこの万作さんが以前コーヒーのCMに出られて。。『違いのわかる男』というものでしたが。(見所から“うんうん、知ってる”というニュアンスの空気が流れる~)その中で「猿に始まり狐に終る」というフレーズがあって、関東の方は、狂言の初舞台に「靱猿」を披く事が多いんです。靱猿という演目は子猿がリズムに乗っていろんな動きをします。そうして狂言の型を覚えていきます。それに対して、関西の方は「伊呂波」や、今日、双子が演じる「しびり」などのような、セリフ中心の演目が初舞台になります。まずは、しっかりセリフを覚えるところから入ります。」と、仰っていました。あとは、演目の内容をわかりやすく伝えて下さいました。★「千鳥」つけで酒を買ってくるように主人から命じられた太郎冠者だが、支払いがたまっているため酒屋は酒を渡さない。一計を案じた太郎冠者は津島祭の話を始める。伊勢路で子どもが千鳥を捕る様子を、酒樽を千鳥に見立ててまねるが、調子よく囃しながら酒樽に近づき持ち去ろうをするのを見咎められる。今度は山鉾を引くさまをみせることにし、酒樽を山鉾に見立てて引くまねをしながら持っていこうとするが、これも制止される。つぎに流鏑馬を再現することにし、馬に乗るまねをしながら走り回り、すきをみて酒樽を持ち上げるとそのまま逃げ去る。 「ちりち~りや ち~りちり~♪」「そこのけ そのこけ お馬が通る」太郎冠者(正邦さん)のしたたかさと、酒を奪われまいとしながらも、面白いもの見せてくれたら酒をやってもいいよ~、と人の良い所を見せる酒屋の主人(千五郎さん)の攻防が、なんともいえないほのぼのとしたリズムの謡いと所作で最後まで笑わせていただきました♪酒を持って行こうとする太郎冠者と、取られたくない酒屋の駆け引きの「間」とか「息の合い方」とか、千五郎・正邦親子ならではの部分も多々あると思います。しかし。。酒樽を千鳥や山鉾に見立ててお祭り風景の再現をするなんて、その発想が面白いですよね。ほんとにホノボノとしていて、酒屋さんには悪いけど癒される狂言でした☆彡★「しびり」堺へ使いにいくように命じられた太郎冠者は、痺れが起こって歩けないと嘘をつく。仮病を見抜いた主人は、せっかく伯父から振る舞いによばれたが、病気ならば連れていけないといって太郎冠者をだます。太郎冠者は治ったといって立つが、それならば使いにいけといわれ、また痛くなって座り込んで叱られる。 いよっ!待ってました~。双子ちゃん☆彡 初見です。私~。見所から自然と拍手が~~。竜正くんと虎真くん。どっちが太郎冠者でどっちが主人だったのかちょっとわからないんですけども、ホントに頑張ってセリフを喋ってました。後見はお父様の正邦さん。太郎冠者さんがちょっとセリフに詰まると、後ろでこっそりプロムプターされてた。主人に言われた使いを何とか断ろうと「痺れの持病が~~」と足を撫でながら痛がる仕草がとっても可愛い~。でも、どうやら美味しい仕事だと聞いた途端、その痺れが「ポイッ!」とどっかへ飛んでってしまうのですから、ホントに都合の良い持病です(笑)その「ポイッ!」が『ちちんぷいぷい~ 痛いの痛いのとんでけ~』のおまじないの時にやる仕草みたいで子どもらしくって可愛らしかった。お子様二人だけで舞台に立って、何をしても何を言っても、見所の暖かい眼差しと笑い声を独占してしまう。まだ7歳の二人が難しいセリフをちゃんとこなし、型も覚えて。。本当に立派な狂言師でしたよ。最後は怒った主人が「ええかげんにせー!」と言って、太郎冠者を追い立てて終わりました。セリフ中心の演目でしたから、茂山家はこういうのからお稽古されていくんですね。★「水掛聟」聟が田の見回りにきて、水が隣の舅の田にとられていることに気づく。そこで畦を切って水を自分の田に引き、よそを見回りにいく。つぎに、同じように見回りにきた舅は田に水がないのに気づき、聟の田から水を引き返すと、水をとられないように番をする。そこへ再び見回りに戻ってきた聟があらわれて水を引こうとし、舅と口論になる。互いに畦を切って水を引こうと争ううちに、聟が舅の顔に泥水をかけてしまう。二人は水をかけあったり、泥を顔になすりあったりし、しまいにとっくみあいになる。その話をきいた妻が駆けつけ、仲裁するが、最後は夫の味方をし、二人で舅を打ち倒して仲良く帰っていく。 前の双子ちゃんの影響か、また拍手で始まりました(笑)お百姓さんにとって、田んぼの水は死活問題ですよね~。今でも「水争い」があると聞いた事があります。他人同士ならここまでこじれることはないんじゃないか、と思いました。身内だからこそ、「舅なら聟のために水をくれるだろう。」「聟なんだからこれくらい許すだろう。」なんて甘えが出ちゃってるのかな~って思った。聟役は茂さん。(上から読んでも下から読んでも「茂山茂」(笑))舅役は七五三さん。田んぼの畦を壊して水を引き入れ、また畦を元に戻す。この所作が何度となく二人の演者によって繰り返される。しかしまぁ。見事なまでにシンクロしてますね。型が。って、当たり前かぁ。もう長年染み付いてるんですもんね。水を引き入れる時は、「がわ。がわ。がわがわがわ~。」の擬音。川で洗濯する時も同じでしたね。確か。舞台で使っている道具は鍬一本。でも、そこには田があり畦があり、水が流れている。そう見えるから面白いです。二人は興奮のルツボに陥って、水はかけるわ泥は塗るわで、まるで子どものケンカを見ているよう。そこへ、聟の嫁。すなわち舅の娘ですね。が、現れて。。舅に「聟の足を取れ~」と命じられ、今度は聟に「あほか。舅の足を取らんかい。」と言われて、結局は聟さんの味方についてしまって、二人で仲良く帰宅。後に残った舅どののセリフが胸に突き刺さる。「お前等、親をないがしろにしたらいつかバチが当たるぞ!」ホントにそうだよね。水や泥を最初に相手にかけたのは、聟の方だった。けど、舅さんの最後のセリフは「まぁ、ええわ。」だったのよね。そこは、「最初に聟の田の水を取ったのはワシの方やし。。」って反省もあったのかも知れない。『水や泥の掛け合いは、地方に伝わる泥掛け祭りなどの神事を思わせる』と、狂言ハンドブックに書いてあったので、あんまりナーバスに受け取らなくてもいいのかも。でも、私的にはいろいろ考えさせられる演目でした。★「附祝言」 最後に沙沙貴神社の宮司さんとお孫さん。そして、千五郎さんが登場されて、ご挨拶をされました。千五郎さんが「最後の演目がケンカ別れで終ってしまったので、おめでたい謡いで締めさせていただきます。」と仰って、附祝言をしてくださいました。『さるとししとはごししゃのもの なおせんしゅうやばんぜいと たわらをかさねてめんめんと たわらをかさねてめんめんと たわらをかさねてめんめんと たのしゅうことこそ めでたけれ』この謡いのもっと最初の部分から。フルコーラスでした。いやはや、それにしても良い時間をすごせて良かったです。千五郎さんたちは、その後も同じ安土町内のホールで夕方から無料公演を演目を変えて上演されるという事でした。私の隣に座っておられた二人組みの女性からそう聞きました。せっかくだからそれも見て帰るとおっしゃってましたね。私は夕方には家に帰らなくてはいけなかったのでこの沙沙貴神社の狂言会だけでしたが、千五郎家はお豆腐狂言を今でも脈々と続けておられるんだな~と、あらためて思った次第です。境内は緑も多く、まだクマゼミやミンミンゼミ、そしてツクツクボウシも時折声を競うように合唱していました。かと思えば、カゲロウや赤トンボがユラユラと飛んでいたりして、夏や秋が混在した気持ちの良い空間だったなぁ。たまには外に出て、日常を忘れて自然の中に身を置く。これは今の私には必須かも。