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山本ふみこさんのうふふ日記

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profile:山本ふみこ
随筆家。1958年北海道生まれ。つれあいと娘3人との5人暮らし。ふだんの生活をさりげなく描いたエッセイで読者の支持を集める。著書に『片づけたがり』 『おいしい くふう たのしい くふう 』、『こぎれい、こざっぱり』、『人づきあい学習帖』、『親がしてやれることなんて、ほんの少し』(ともにオレンジページ)、『家族のさじかげん』(家の光協会)など。

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2012/06/26
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カテゴリ:生活

 「こういうのも、再会と呼べるかな」 
 とつぶやいたとき、悟った。 
 それは、たしかに再会にちがいなかった。 
 ある日曜日。 
 友人宅に夫とふたりで招かれ、おいしいランチをごちそうになる。目の前で夫人の宣子さんが手まり寿司をこしらえ、夫君T氏がハンバーグステーキをこねてまるめて焼くまでを眺める。この光景も、ごちそう。
 手まり寿司は、宣子さんがお母さまから受け継いだものだという。
 「母がよくつくってくれたの。きれいだし、おいしいし、大好き」
 ハンバーグ当番のT氏は、この日の朝、気に入りの肉屋に行って牛肉を挽いてもらってきたそうだ。畏れ入る。ソースは、ケチャップと中濃ソースを混ぜたもの。
 「ソース、格好つけたかったんだけど、いつも通りがいいと思ってね」
 と云う。
 いいところを見せようととくべつなことをして失敗、という図式は、わたしにも経験がある。いつも通りがいい。

 そら豆(莢ごと焼いてある)。
 チーズ数種とオリーブの実。
 サラダ。
 吸いもの(みつば、手まり麩)。
 手まり寿司(いくら、炒り卵、きざみ青菜など)。
 バゲット。
 ハンバーグステーキ マッシュポテト添え。
 杏仁豆腐。

 「珈琲はテラスで」
 というT氏の声で、陽当たりのいい居間を横切って移動する。
 宣子さんがひょっと足を止め、何かを持ち上げながら云う。
 「これ、この春いただいた花束のいまの姿なの。いいでしょう」
 見れば、ドライフラワーだ。鮮やかさをとどめた不思議な乾燥花。

 ことし2月19日、夫とわたしは「文京シビックホール」(東京都文京区)で上演されたオペラ「ランメルモールのルチア」の観客になっていた。
 宣子さん所属の区民参加オペラ「CITTADINO歌劇団」による舞台だ。CITTADINOとは、イタリア語で「市民」という意味。
 昨年の「椿姫」(ヴェルディ作曲)がわたしたちの、区民参加オペラCITTADINO歌劇団初鑑賞だった。そのときの感動は、たちまち1年1回のたのしみを授かった感謝へとつながり、わたしたちはことしの公演を指折り数えて待つに至った。
 「ランメルモールのルチア」の舞台にもまた、「椿姫」に劣らぬ悲劇的な愛の世界がひろがっていた。ひとという生きものに宿る「愛」の深さ、運命とのかかわりは、それを座席で受けとめるこの身に、息さえつかせない。

 上演から10日あまりが過ぎたころ、宣子さんにお礼の気持ちをこめて小さな花束を贈った。そのときの花束が、ドライフラワーになってこうして目の前にあらわれた。再会である。
 おいしいランチも、たのしい会話も何もかもすばらしかったけれど、この再会が、もうひとつよろこびを加えてくれたかたちだった。ただのよろこびではなかった。花束との再会は、わたしにしきりに何かをおしえようとしている。……何だろう、何だろう、何をおしえてくれようとしているのだろう。帰り道、夫の傍らで視線を低くして歩きながら、考えている。

 わたしたちには、そのとき起こっていることしか見えていない。たったひとつの小さな花束の行く末すらわからない。のちのちのことを知ることは、許されていないのだ。
 のちのちのことを見通せなくとも、わたしたちには、信の領域があるのではないか。
 信の領域。それは、未来を信じること。
 いま起きていることが、如何なる苦しみ、如何なる悲しみのなかにあったとしても、信じること。苦しみ、悲しみが力を与え、その力が拓き、導く未来の到来を信じること。

ブログドライフラワー.jpg
これが、再会の花束です。
なんだか、何かを語っているようでしょう?


ブログアイビーの根.jpg
ことし2月、若い友人の結婚披露宴で、
卓上花を、包んでいただきました。
花たちは驚くほど長く元気でいたのですが、
やがて枯れました。が、アイビーから根が出ていたのです。
小さな植木鉢に植えつけ、新婚の友人夫妻に贈ろうと思います。
わたしが贈りたいのは……、再会。

         
〈お知らせ〉
6月30日(土)、映画「オロ」が公開されます(渋谷ユーロス ペース※)。
監督:岩佐寿弥 プロデューサー:代島治彦 撮影:津村和比古 
音楽:大友良英 絵・題字:下田昌克 編集:代島治彦 整音:滝 澤修 
通訳・コーディネーター:ツェワン・ギャルツェン ボランチ:南椌椌 
制作・配給:スコブル工房 企画・製作:オロ製作委員会
2012年/108分/日本/チベット語・日本語/HD/カ
ラー・ステレオ/日本語字幕付き

夫・代島治彦(本ブログの写真係でもある)が製作と編集を担当 しました。
映画の主人公オロは、6歳のときチベットから亡命。
現在イ ンド北部の町ダラムサラで、
チベット亡命政府が運営する「チベッ ト子ども村」に寄宿し、学んでいます。
オロ少年の置かれている状況は、あまりにも厳しく、悲しい……。
が、その姿は、この多難な 時代を生きる「地球上のすべての少年少女」
(福島第一原発事故により、避難を余儀なくされた少年少女も!)に
共通するものです。 少年少女の未来を灯すこの映画を、
子どもたちとともにも観ていただけたら、と希っています。
なお、今回の「のちのち」に登場のT氏は、
この映画の撮影 を担当した津村和比古氏です。
そのうつくしい映像も必見です。
※渋谷ユーロスペースから上映がはじまりますが、
 その後、全国に上映の輪がひろがる予定です。
 映画「オロ」のホームページ参照。








最終更新日  2012/06/26 11:43:45 AM
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