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カテゴリ:うふふ日記
だらだら薬の効き目だろう(前回の「うふふ日記」を読んでくださると、だらだら薬のことがわかります)、だらだら薬服用の翌日は、からだがだるくなった。
張りつめていた心身がゆるんだゆるんだ。そう思うと、うれしくてならない。幸運にもその日は急ぎの用事が少ししかなかったので、午後から蒲団にくるまった。 目覚めたのは午後5時過ぎで、そのとき初めて枕に頭をのせてから2時間半が経過していることを知った。時間がどこかへ消えてしまったかのような、深い眠りだった。寝つくまでのあいだに読もうと思って携えていた本の表紙に触れることもないまま、たちまちわたしは蒲団の国に到着したらしかった。 睡眠のことを時間旅行のように考えているわたしが、その旅先を「蒲団の国」と呼ぶようになってから、もうずいぶんたつ。 「蒲団の国」のはなしはかつて書いたことがある(『親がしてやれることなんて、ほんの少し』オレンジページ刊)。中学時代に、教科書に載っていた吉行淳之介の短篇小説「童謡」(*1)が、ことのはじまりだ。忘れられない小説だった。 大人になってから、図書館でさがしにさがし、やっとのことで再会したときはうれしかったなあ。わたしが小説の題名を「微熱」とあやまって記憶していたために、みつけるのに手間どった。吉行淳之介全集に収められた「私と教科書」という随筆によって、自分の記憶ちがいを知った。短篇の題名は「微熱」ではなく、「童謡」。 ごく縮めて記すなら、少年が高熱を出し、急激に痩せたかと思うと、こんどは太り、もとに戻るというものがたり。病気という体験を通して、少年は自分から欠落していったもの、あらたに加わったもののあることを感じている……。 本との再会はあまりにもうれしく、それからというものわたしは、眠ることを短篇「童謡」のなかに登場する「蒲団の国」ということばで思うようになった。蒲団なしでも、その国には行ける。ありとあらゆる車中、ありとあらゆるベンチ、ありとあらゆる木の根方、ありとあらゆる……で、わたしはその気になれば、造作なく「蒲団の国」へ行ってしまえる。ときにはその気がなくても眠っているが、その気というのがどんな気なのかは、はっきりしない。その気のあるなしの境目もじつにあいまいで、もしかしたらわたしの拠点は「蒲団の国」にあって、こちら側にやってきているのかもしれないと、考えることがある。 さて、何のはなしをしていたのだったか。 そうだ……。平日の午後2時間半も眠りこけてしまったなど、あまり大きな声で発表できないなと胸の奥で恥じているのだ。わたしはじたばたと、そのことを正当化してみせようとする。「このところ、ちょっと忙しかったからね」とか、「あしたは、うんとがんばるからさ」と、へらっと正当を訴える。誰に訴えるのかと云えば……、もちろん自分に。他人(ひと)にどう思われようとかまわないが、自分の信頼を失うのは困る。判断基準がずれてしまう。 ところで午睡の正当化には、ほら、奥の手、わたしがそも、「蒲団の国」で暮らしていて、こちら側にときどきやってくる存在だというあれもあるのだったな。 2時間の深い眠りからもどってきてみると、からだが軽くなっていて、夫がつくってくれた晩ごはんを食べ、ゆっくり湯につかったあと、なんだか蒲団の国に帰るのが惜しくなった。 ——そうだ、あれをしよう。 何年も二つ折りのファイルにはさんではためていた新聞の切りぬきを、整理してスクラップブックに貼りつけようというのである。 こういうのは、なんとかしたいと思いながら、「いずれね」と云ってひきだしの奥にしまいこんでしまう、そういう種類のしごとだ。それを、わざわざ奥のほうから引っぱりだして見直そうというこころは、安定していると云えるのではないだろうか。 だらだら薬、それにつづく午睡の効き目のあらわれにちがいない。 切りぬきを1枚1枚ならべてゆく。すると、過去のわたしの関心の向く方向が知れて、じつにおもしろい。おもしろいと云えば、友人がくれた切り抜き、友人宅でちぎらせてもらった記事が混ざっているところだ。 1枚の切りぬきには、隅っこに「ふんちゃん、部屋の片づけをしたら、これが出てきました。いいでしょ。あげます。Hより」と書いてある(この切りぬきに年月日と新聞名のないことが残念。切りぬきにこれらは不可欠と、思う)。白洲正子(*2)の能のはなし。もっと云えば友枝喜久夫(*3)のことを書いた随筆だ。この切りぬきを持っていることはおぼえていた。自分の行く道を照らす灯(ともしび)のように思ってもいた。が、このようなものと、切りぬき帖のページをめくるだけで対面できるとしたら……。灯がますます明るく、わたしの足もとを照らしてくれることだろう。 切りぬきの整理は、午睡と同じ2時間半で終了。 つぎのめあては、住所録の整理だ。 * 1「童謡」:『吉行淳之介全集 第二巻』所収(吉行淳之介/新潮社) * 2白洲正子:(1910−1998)随筆家・美術評論家。能は4歳のころから親しみ、関連の著書も多数ある。 * 3友枝喜久夫:(1908−1996)友枝家は熊本藩主細川家お抱えの能楽師の家筋。晩年に目を病み、1990年「景清」をさいごに能舞台かあらは退くが、謡や仕舞いはつづけ、最晩年まで現役だった。 切りぬき帖。 いろいろ考えて、B5判のサイズの紙が貼れる スクラップブックを選びました。 切りぬき帖づくりは、いまのわたしにとても効きました。 こころが軽くなりました。 (この切りぬき帖は、わたしがこの世から旅立ったあと、 誰かに譲ってもかまわない。……そんなようなものでもあるなと 思います。日記や写真帖は譲れませんけれどね)。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
(●^o^●)ふみこさんの本棚の本に注目、しました!
庄野潤三さんの本がたくさん並んでいますね。 私、ときどき無性に庄野さんの本を読みたくなる時があります。 そうして、『聖の青春』これは名作ですね。 一人でも多くの人に読んでもらいたいと思う一冊、です。 (2013/04/23 10:23:05 AM)
ふみ虫さま
その切り抜き帖のしごと 午睡にも匹敵。 ほどけていく感じでしょうか?! 書架の本たち大切に 引っ越してこられたんですね。 ふみこさんが 手紙の大切さを教えて いただいた 庄野潤三さん ふみこさんに 手紙の温かさを教えて いただきました。 感謝です。 (2013/04/23 12:45:46 PM)
密かに、こっそり呼んでいた「蒲団の国」・・・
あぁぁ、おふみさまも誘われておられましたか^^ 私は、それこそ、1,2,3で到着します。 なかなか到着できない友人が多い中、いろんな工夫を 提案してみますが、一筋縄ではいきません。 「蒲団の国」が暗闇以外の時間に呼びかけるのは、 きっと「だらだら薬」の効果を応援しているのだと思います。 「ほらほら、いらっしゃい」 時に、頭も身体も軽くなる魔法もかけてくれます。 吉行淳之介さんの本を読みながら、何度も何度も その国に出掛けたのは、私も中学生の頃でした。 懐かしく、またお会いしたくなりました。 (2013/04/23 01:10:25 PM)
なるほど。薬ですものね。効きめがあるのですね。
そうかそうか。 そして、それは、好ましい果実をうむわけなのですね。 蒲団の国に行っても、ちゃんとまた次に行くときに なんのもんだいもなくまた行ける、そんなパスポートを 手に入れようとしているところ。勝敗は五分五分まで持っていけるようになり、わたしとしては進歩。蒲団の国拠点のふみこさんや、どりすさんのような、達人の域にはまだ及ばないけど。 でも、一番いいなあ、と思ったのは、蒲団の国からおからだ軽く戻られて、ご主人のつくってくれたごはんを食べる、ってところです、はい。 (2013/04/23 01:26:59 PM)
ふみこさま、みなさま、こんにちは。
我が家の娘も高校生になりました。 受験が終わりホッとしたのも束の間。 市役所だー、教科書だー、制服の採寸だー、と、 バタバタして、入学式にはもうすでに母は疲れていました。 (笑) ふみこさまと同じく、お弁当生活も始まりました。 ずっと給食だったので、初めの頃は一日中頭からお弁当の事が離れないくらい緊張してました。 ようやく少しだけ、楽しむ余裕が…。 でも余裕ができた分、緊張の糸がどうにかなってしまったのか、先週くらいから体と頭が疲れてだるくて重いです。 私が寝込んでしまったら家族は大変だろうから、休み休み…と、思いながら、残業と持ち帰った仕事でへとへとの主人と、新しい高校生活でへとへとの娘を見ていると、 やはり頑張らないと!!と思ってしまうのです。 これじゃ悪循環だよーと分かっているのに。 あー、バカだなぁーと思いながら、明日のお弁当が早くも気になっているのです。(苦笑) (2013/04/23 01:44:26 PM)
ふんちゃん、みなさまこんにちは。 だらだらってなまけてるって思われがちですが、 だらだらは気持ちの切り替え・向上に良いクスリですね。 現在、就活中の私。 先日1社落ちてしまいました。直後は落ち込みましたが、まだ内定するまでの準備が足りていなかったかな、と。うまくいかなさを味わうことができたのは 良いことだと思いました。 (2013/04/23 02:10:57 PM)
ふみこさま、みなさま、こんにちは。
蒲団の国。 切り抜き。 教科書。 ああ、旅行なんだなとおもいました。 気持ち、おもい、こころ、魂の、旅行。 でも、それをいえば毎日の生活が旅行ですよね。 ほぐれてゆける場所があるということなのでしょうか。 こちこちでいってしまう場所があるように。 (2013/04/23 02:31:44 PM)
マドレーヌさん
『聖の青春』は、名作です。ね。 読みたいと思って、古書店を歩きまわっていたとき、 友人がとつぜん(わたしがさがしているとも知らず) 送ってくれた、不思議も重なって、わたしの宝ものなのです。 ふ (2013/04/23 05:52:40 PM)
寧楽さん
ほどける感じ、解ける感じ、 ほんとにそんなでした。 いま、とてもすっきりして、 「だらだら薬」、「午睡」のおかげだなあと 感謝しています。 ふ (2013/04/23 05:55:25 PM)
どりすさん
どりすさんも教科書で? あのころ「吉行淳之介」がいてくれて (本があってくれて)、わたしは相当に 救われていました。 大人になってからは、 吉行淳之介が(みずからの編集者時代の経験から)、 締切の約束を破ったことがないというはなしを 担当編集者の手記で読み、 なかみは真似できないけれど、 締切のことだけは真似しようと誓いました。 いまのところ、守っています。 ふ (2013/04/23 06:08:44 PM)
rantanaさん
その日夫がつくってくれたのは、 アラビアータのパスタ(唐辛子を利かせた トマトソース)と、ぱりぱりきゃべつどっさりでした。 「ぱりぱりサラダ」は、 きゃべつをちぎり、 ごま油と塩とレモン汁で和え、ブラックペッパーを ふってつくったそうです。 5人で春キャベツ1個分食べてしまいました。 ふ (2013/04/23 06:16:59 PM)
たまこさん
仕事との出合いも不思議で、 やっぱり「縁」ということになるのですけれど、 人生の上のひとつの「目印」です。 佳き目印が、ふさわしいときにあらわれますように。 みんなで、祈ってるよー。 ふ (2013/04/23 06:21:49 PM)
ふみこ様、みな様こんにちは。
蒲団の国!かの国に、私にとってはネバーランドのように変わらぬ場所があります。 ある時はくノ一、ある時は悪代官から逃げるお姫様、ある時は何処かの諜報機関のスパイになって逃げることになる国です。でも、その国に行くと空を飛べるのです。 必ず実家の押し入れから、屋根裏を抜けます。そして逆バンジーのように空へ… 雲の上から地上を眺め、自分の思う通りに高度を変えながら飛びます。上へ上へと願えば、気流を駆使して浮かびます。 そして、空を飛びながら、自分は何か革命を成し遂げるのです。その後満足して目覚める… 何度も何度も訪れた国でした。 頻繁に訪れていた頃は、自分をジャンヌダルクの再来と思っていました。 蒲団の国は、体力的にだけでなく、心もちにも力をくれます。 (2013/04/23 11:58:21 PM)
ふみこさま。
私も、蒲団の国、大好きです。自由業なので、いつでも行けるのが、私の特権です。 今日、息子は、職場の人と泊まりがけの飲み会です。 なんか、前、飲み会をしたとき、息子のキャラが面白くて 行ってなかった人たちも、行きたい!ということで、みんなで ネットカフェに泊まるとか。ひえー。明日も、仕事だから、飲みすぎないでね・・・と心配しきりの母でした。 仕事は3カ月が、バイト扱いで、まだまだ一人前の仕事はできない息子なので、かわいがられているうちに、しっかり仕事を覚えて行くんよ!と、声をかけています。 子どもって、いつまでたっても心配です。 (2013/04/24 01:49:51 PM)
ちぇりーさん
ちぇりーさんが、そんなふうになれる場所は、 「蒲団の国」のどのあたりにありますか? こんど、お会いしましょう。 飛んでいるちぇりーさんを、 わたしがみつければいいんですね。 いまは頻繁でないにしても、 きっとあちらで。 ふ (2013/04/24 03:28:57 PM)
ふみこさん、こんにちは。
ふみこさんから教えていただいた「蒲団の国」という言葉を知ってから、午睡をする時の自分自身に対してのうしろめたい気持ちが軽くなりました。 疲れたら休めばいいんですよね、、、。 ふみこさんが深い眠りから目覚めたときのスッキリした気持ちを想像して、私まで気持ちがすっきりしてきました。 こういう睡眠は大切ですよね。 私の切り抜き帖といえば、新聞記事(たまに)と料理レシピと好きな芸能人の雑誌(中学生みたいでしょ、うふふ)です。 いま私が一番気になっているのは、、、くつ箱の整理です。 これが出来たら気持ちがスッキリするのは分かっているのですが…天気の良い日に近々行いたいです。 (2013/04/25 10:53:56 AM)
ふんちゃん
私も「蒲団の国」大好きです! 前回は、だらだら薬になかなか手が出せない私の背中を、「ポンッ」と押してくださってありがとうございます。 いつになく、しっかりと押していただいた気配を感じて、物事に優先順位などをつけずに、やりたいことからやる、しかも、だらだらとする!ということをやってみました。 そしてね、ちょっと「蒲団の国」へも行ってきました(^v^) そしたらね、風邪をひきました。ひけたという表現のほうがいいかもしれません…(*^_^*) 家族に、「風邪をひいたよ」と宣言し、八つ当たりをしても、だらだらしても、「それは風邪のせいだと思っていてください」と説明しました^m^ そのせいか、台所で茶碗洗いをしている私のところへ娘が心配そうにやってきて、じーっと私のすることを見ていました。そして…「私もしようかな…。ママがやっているのを見ると、なんだかやりたくなるんだよね…」とつぶやくではありませんか~。大変そうだからやってやるよではなく、私のすることを見てると、やりたくなっちゃうなんて!うれしくてうれしくて…でした。 これも、「だらだら薬」の効能、「蒲団の国」からのお土産のような気がしました。 だいじです!ね。 (2013/04/25 10:59:56 AM)
こんばんは。
今日、春キャベツのぱりぱりサラダを 作ってみたしたー。思いっきりレモンをいれたので シャキッと 酸っぱくて 美味しい。 酸っぱいのが 苦手な 男の子軍団のために 韓国のりを ちぎって混ぜてみました。 これもなかなか おいしかったですよー (2013/04/25 08:07:22 PM)
ゆっきーさん
疲れたら、「蒲団の国」ですとも。 ご自身も、大事なひとも、みんなみんな、 送りこんであげましょう。ね。 中学生のようなのなら、 わたしも持っておりまする。 一所けん命つくっています。 ふ (2013/04/26 12:19:13 AM)
ももさん
風邪をひけた、という感覚、 みならわなければいけないな。 と思いました。 みならおうとしながら申しますが、 どうかお大事に。 ゆっくり、動いてくださいね。 ふ (2013/04/26 12:22:00 AM)
まきはやさん
どうもありがとうございます。 韓国海苔ね、了解しました。 たのしみ。 この料理とも呼べないくらい簡単にできる 春きゃべつのぱりぱりサラダ、 そうとうにきゃべつが食べられますね。 ふ (2013/04/26 12:24:17 AM)
ふみこさま みなさま こんにちは 蒲団の国の話に因んで。 私の元気の源は、睡眠です。 子どもと一緒に21時に蒲団に入り、だいたいそのまま蒲団の国へ・・ 朝7時前まで目覚めない日もあるのです! 寝過ぎですよね(^_^) でもそんな日は、一日中身体にパワーがみなぎっています。 私には眠ることが、大切なの!と ふみこさんのおかげで 家族に宣言できそうです。 今朝は気分爽快。 5時にお弁当ふたつとハヤシライス、作ってきました。 (2013/04/26 03:10:35 PM)
ゆうドットさん
ほんとうに。 睡眠は、元気の源です。 ご家族の皆さんにも、 等しく睡眠は大事ですが、 それ以上に、 ゆうドットさんのつくるお弁当やハヤシライスや、 いろんなおいしいものが「元気の源」。 ふ (2013/04/26 04:00:34 PM)
4月18日に無事男児を出産しました。2497gと小さめでしたが、先日母子ともに退院しました。
退院のとき、赤ちゃんを取り上げてくださった助産師さんが、「無理はしないこと。おうちのことも1ヶ月は、出来ると思っても出来ないふりをして休みなさい。やってしまうとどんどんやらされちゃうからね!」とアドバイスをいただきました。夫の慣れない家事、母の疲れを見るとついつい動いてしまいそうになりますが、ぐっと我慢して最小限にとどめています。 (2013/04/27 03:23:01 PM)
しょうさん
おめでとう!ございます。 その気持ちの前に、ほっとする気持ちが湧きました。 この数日、そわそわしていました。 外で赤ちゃんに会うたび、怖い顔をしていたかもしれません。 よかった……。 ほんとうにね。 できるだけ、ゆっくりね。 ゆるゆるお願いしますね。 動きたい気持ち、わたしが預かります。 ……よかった。 ふ (2013/04/27 07:32:03 PM) |