名物男の引退パート2
「望洋荘」の名物男・長谷川さんは仙台でサラリーマンをしていた40代前半に脳梗塞を発症した。「無断欠勤をいぶかしんだ上司が自宅を訪ねなければ,死んでいましたよ」と言うように一命を取り留めた。その会社を辞めた後、リハビリを兼ねて千葉県九十九里の国民宿舎に就職した。此処でグラウンド・ゴルフに出会った。ルールブックを眺め、大会に参加し勉強した。望洋荘は設備は老朽化しているが、素晴らしい芝のコースがある。普通、学校の校庭や市民公園の砂地や草地で練習している者にとっては天国のような環境である。此処に16ホールのコースを設定し、各地から競技者を集め、大会を開く。その成績優秀者を集め、年に一度チャンピオン大会を開く。このチャンピオン大会を目指して、愛好家たちは予選大会でがんばる。各大会のコース作りや大会運営は長谷川さんの仕事だ。表彰式の司会は彼がやる。コレが見事だ。参加者の顔を覚えていて、持ち上げたり、からったりしながら成績を発表してゆく。「やりました00さん、今年最高の成績です。」「おめでとうxxさん、ご夫婦での入賞です。二人で賞金稼ぎしないで下さい」「こんなこともあります。名人00さんどうしたのでしょう。ブービーです」参加者はプレイする楽しみもあるが、長谷川さんの愉快な表彰セレモニィを楽しみにしている。私もそのひとりだ。7年間掛けて、彼は常連を掴み、この施設の来場者を20パーセント増にした。老朽化した宿泊設備、交通不便、さしたる観光資源もないこのホテルに私達が行くのは、素晴らしい芝コースとこの名物男に会いに行くためだ。退職の理由は体調不良だという。それなら仕方ないが、淋しい限りだ。復活を望んでやまない。