渥美清さんとラーメン屋に行った。
撮影所の昼休み、渥美さんに昼飯に誘われた。「Mちゃん、ラーメンでもどう?」「良いですね」スタッフ連中がゴミヤと呼ぶ小さなラーメン屋「こみや」に行った。撮影所の正門を出て、100mくらい行ったトコロにある席数20足らずの小さなラーメン屋である。近くの町工場の工員や商店街のお姉さんが割烹着で来るような店だ。カウンターに座って、くだらない話をしながらラーメンができるのを待つ。餃子も頼んだ。シュルシュルと音をたて ラーメンを食べ終えた。店を出るとき渥美さんが親父に聞いた。「まだあるかい?」「へい、まだ大丈夫です」「そうかい。じゃあね」そう言って 先にたって店を出た。最初、ああツケにしているんだな。そう思った。よく考えたら違っていた。あとで親しいスタッフに教えて貰った。「つまりオマエな、渥美さんはゴミヤにお金を預けているんだよ」はあーそうなんだ。英語で言えばデポジットだ。違う違う。「面倒臭いんだよ。いちいち勘定するのが。」へえ,渥美さんらしいや。それに粋,カッコいいよな。油まみれの暖簾をくぐって歩いていく渥美さんの後姿がまぶしく思い出された。