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萩野 哲人

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2005/03/24
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カテゴリ:書評
つい数日前の日記でも触れていたが、ここしばらく黒井千次の『春の道標』を
読んでいて、先日読了したので簡単なコメントを書き記しておく。

この本、実は高校生の頃に一度読もうと試みて断念したことがある。
その時は、現代文の試験でこの小説の一部が問題に使われていたのに興味を持ったのが
きっかけだった。けれど、はぎのはどういうわけか自分で手に入れた本でないと
最後まで読む気力がなかなか出てこない人間で、図書館で借りた本はそのうちに
期限が来て途中で返却してしまう事になった。
『真冬の挿話』を書くに際して参考にもう一度読んでみたいと思っていた矢先、
ひょんな事から手に入れる事が出来たので、じっくり読む機会に恵まれた次第。

『春の道標』は恋愛小説だ。明史という名の高校二年生の主人公が、
近所の一つ年上の知り合い、慶子と、学校へと向かうバスを待つバス停で知り合った
棗という中学生の少女との間で揺れ動くという内容。
彼はある雨の日に慶子と交わした口付けをきっかけに彼女の好意を知るのだけれど、
自分の慶子に対する気持ちを量れぬまま、
だんだんと学校に行く道々見かけるようになった棗に興味を覚え始める。
そんな微妙な心情の動きを描いたのがこの作品。

時代設定が戦後間も無くという事で、登場人物の間の通信手段はもっぱら文通。
この慶子と明史の間でやり取りされる文通の内容がドラマチックなのだ。
しばらくは彼を好いている慶子の調子に合わせて返信していた明史なのだけれど、
ある日とうとうたまりかねて「嘘です!あれは全部嘘です!」と書いて送ってしまう
明史。その手紙の内容の痛切なこと。
またもう一方のヒロインとなる棗に関する人物描写がとても瑞々しい。
読んでいて思わず自分が明史になった気でその姿にときめいてしまう。

ただ一言で「恋愛小説」と表現したけれど、この小説の中にはそれ以上の沢山のものが
詰め込まれている。明史は文芸サークルに所属していて、誌や小説などを載せた
会誌をささやかながら発行している。で、そのサークルが政治団体も兼ねている。
彼の通う学校では、丁度その折起きた「三鷹事件」に関連して学生の政治運動が盛んで、
彼もそれに興味を持っているのだ。そういった恋愛以外の心の動きも描かれており、
また彼の父親というのが検事という大変な仕事についている、威厳のある父で、
彼がその父親の影を重荷に思っている事に関してもかなりの部分が割かれている。

だからこれは完全に恋愛一辺倒の小説というよりも、こうした誰もが一度は過ごす
こうした多感な少年時代の全体を、明史という主人公を通じて描写した小説なのだ。

この小説を読んではぎのが見事だと思ったのは、こうした恋愛事、またその他の
事柄について、明史の辿る感じや考えが、読んでいる人間誰もが自分の経験に照らして
共感できるような一般性を備えている事だった。
この小説(新潮の文庫版)の最後に載っている書評にも書かれているのだけれど、
明史の体験そのものはかなり小説的でドラマチックであるにもかかわらず、
その中には読んでいる人間が「ああ、あったあった、こんなこと」と
多少の懐かしさをもって思い出せるような事柄がかなり含まれているのだ。
すごくリアルで、読み手の実際の経験に迫ってくるものがある。

恥ずかしながら純文学のいわゆる「恋愛小説」をあまり読んだ事のないはぎのにとって
この小説はすごく新鮮なだった。まったく論理的に体系化されていない、混乱した、
ありのままの少年時代というものがこの小説に詰め込まれているような気がした。

『春の道標』の全てを語るというのは無論はぎのの技量的にも字数的にも不可能なので、
この記事を見た方で興味を持った人がいたら、是非一度読んでみてください。
絶版本なので手に入りにくいかもしれないけれど、探してでも読む価値は
あるんじゃないかなと思います。





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Last updated  2005/03/29 03:42:15 AM
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