銀座の本社に勤めていたころの話である。
当時はわたしはワゴンRに乗っていた。
その日はイベントか何かの仕事で荷物を運ぶため、頼まれてマイカーで本社に来ていた。
上司数人が霞ヶ関の某省庁に行く用事が突然できたらしい。
ところが、会社の公用車が出払っていて、ちょうど止まっていたわたしの車で霞ヶ関に行って欲しいと頼まれた。
「わ、ワゴンRですよ?軽ですよ。いいんですか?」
「急ぐから構わん。いいから行ってくれ。」
上司三人を乗せ、本社を出発した。
当時、わたしは公用車の運転手もやっていたので霞ヶ関へは慣れた道である。
が、ワゴンRなんて背広を着たおっさん三人+運転手が乗る車ではない。
某省庁の入り口に着くと門番が明らかに怪訝そうな顔で見ている。
そりゃそうだ。こんなところにワゴンR以前に軽自動車なんかで来るバカはいない。
が、正式に発行された入講証を持っているので門番も通さざるを得ない。
しぶしぶ通される感じで中に入った。
あまりに恥ずかしいので、上司を降ろして、速攻で帰ろうと思ったら、
「用事はすぐ済むので待ってて欲しい」とのこと。
仕方ないので駐車場にワゴンRを止めた。
黒塗りの車に囲まれ、完全に浮いているワゴンR。
まわりの黒塗りの運転手からも「なんで軽でこんなとこに来てんだ?」と冷たい視線が浴びせられる。
上司が戻るまでまさに針のムシロ状態。
車にもTPOが求められるのがよくわかった20代前半であった。
と、内閣改造でつきづきと首相官邸に現れる大臣に軽に乗ってくる人が皆無なのをテレビで見てて思い出したのであった。