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カテゴリ:アマチュア棋界・アマチュアの将棋
先日、地元の高校生の大会がありました。その準々決勝あたりでとんでもない将棋があったようです。
後日聞いた話なのですが、駒が回り将棋の五が出たように立ってしまったそうです。プラ駒にソフト盤を使用したとの事。 それでそれを指された相手が時計を止めて審判を呼んだのですが、切れ負けの将棋で残り時間は3秒対6秒という状況だったようです。駒を立たせたのがA君、それを指されて審判を呼んだのがB君とします。A君が3秒、B君が6秒だった模様です。 大変珍しいケースですが、昨年にも同じように駒が立った将棋があったようで、その時の経験から「これは反則だ」という判断が下りました。 A君の反則負け、B君の勝ち、という結果となりました。そしてそのまま大会は進行して行きました。 ところが、この将棋は実はB君が二歩を指していました。その二歩は、A君が駒を立たせて、その次の手として、その駒を立たせた反則を成立させるために急いでB君が打った二歩でした。 成立させる、そのために打った二歩というのもおかしな話です。別に次の自分の手を指さずとも、A君の着手の直後に時計を止めて、そして審判を呼べばそれでいいだけの話です。 それに、次の自分の着手をわざわざ反則の二歩にする必要もない訳です。 まあ、切れ負けのこの残り時間の状況では冷静な判断をするのもなかなか難しいものですが。B君の駒台の上には歩以外の駒がなかったらしいですし。 そしてその二歩にも審判氏は気付いていたらしいのです。A君がその二歩を指摘すれば、判定はどうなったのか、どう勝敗は転んだのか分かりません。 審判氏は実は、別の大会で別の人がそういった『反則を成立させるための反則』という手を指したのを目撃したという事も経験済みでした。つまりは、先にやった反則が優先という事なのでしょうか? 自分の感覚からすれば、やや首を傾げる理屈なのですが。(個人的な感想からすれば、この前例が審判氏に妙な先入観を与えた、という気がするのですが) A君はずっと大人しくしていて、何も言及しなかったようです。とにかくこれが大きかった訳です。もしA君が相手の反則を主張すれば、指し直しという事になっただろうと思われます。 A君の敗因は何も口出ししなかった事で、B君の主張だけが通った形になりました。 そして更にとんでもなかったのは、実はもう一つの二歩をB君が指していたのでした。 時計を止めた局面では、実に左右にそれぞれ一つずつの計二つの二歩が存在し、その二つの二歩に挟まれたかのようなカッコでその間に桂の成りでも不成でもない中間の立った駒が存在するという、トリプル反則の図でした。 審判氏はそのもう一つの二歩にも気付いたのですが、流石にこれは時計を止めた後で駒が動いたり引っくり返ったりして、偶然二歩の状態になったのだろう、と思ったそうです。その事を口に出して聞いた所、対局の当事者は黙っていてギャラリーも助言にならないように配慮したのか無言だったそうです。 その二つ目の二歩に関しては審判氏はあまり気にもせずにB君勝ちの判定を下してその場を離れたのでした。 ところがそのもう一つの二歩も、正真正銘の本物の立派な二歩だったのです…… 最初の二歩とはどういう状況で生まれたのかと言えば、それはもう本当に、B君にとってはどうしようもない必敗の局面だったそうです。 お互いに時間切迫で、自分は勿論あっぷあっぷの状態。劣勢を通り越しての絶望的な敗勢、持駒は歩しかない状態。頼みは、相手も残り時間が少ないという事だけ。この状況でこの局面で相手を悩ませ時間を使わせるには、この歩の王手のこの一手しかない、そうB君の勝負勘が告げたようです。その歩の王手は二歩でしたが。 B君はその一回目の二歩も、二歩である事を自覚した上で打ったのでした。二つの二歩は両方とも意図的に打った二歩だったのです。 そしてつまりは、A君の駒立ちの反則よりも、先にB君の二歩が指されていた事になります。 (更に言うまでもなく、後にも二回目のB君の二歩がある。一回目の二歩→駒立ち→二回目の二歩、という順番であり、「先にやった反則優先」ならばB君の反則負けという事になってきます。この事が後から審判氏を苦しめ、後悔させる原因となったのです) その王手を見て、B君の勝負勘の通りに、A君は考え、悩み、そして取る手もあったけども、取らずに玉をかわしました。 そして最後にはB君の玉には3手詰が生じました。桂成で行っても、金で行っても、その後ろ盾に角が利いている。桂成もしくは金→同銀→同金もしくは桂成までの詰み、という状態でした。 A君は桂成で行って、桂を裏返すはずが、成らずに立ってしまって…… そしてB君は素早く反則を指摘するべく行動した、という事です。 それにしても何でまた、わざわざ二歩を指して、それから審判を呼ぶのでしょう(この場合のB君のベストの手は先の二歩を解消すべく歩を成る手だったでしょう)。まあ繰り返しになりますが、時間がなかったのが理由でしょう。審判が来るまでの間に、立った駒が倒れたらどうするつもりだったのでしょう……? その局面は、すでにA君の反則は消えていて(不成だと『行き止まり』の反則になりますが)、桂成の王手に対して無関係の応手をした『王手放置』の状態です。それでなくても3手詰の局面なのですが。 一方的にB君の三つの反則の図です。 一体全体、何重苦と言えるのでしょう……? B君が勝てる唯一の手段が、まさにA君の反則負けを成立させる事のみでした。 二つの二歩対一つの駒の立った反則で、二対一でA君の勝ち、という判定すら有り得るような状態です。恐らくは審判氏は両成敗の指し直しという判断を下したと思いますが。 ……まあとにかく人間が指す将棋は思いもかけない事があるものです。ネット将棋では絶対に起こらない事ですが。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.07.09 23:52:47
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