奥田英朗さんの精神科医伊良部シリーズを久々に読んだ。
なんと17年ぶりだそうだ。

ハチャメチャの精神科医伊良部先生と恐ろしくクールなナースのマユミさんの奇想天外だが問題の核心を衝いている治療法で現代人の心の病を癒していくシリーズで、もう相当前「空中ブランコ」でハマった以来のワクワクした時間でした。
今回はやはりコロナの影響が作品全体を通して色濃く反映されています。
表紙からしてそうですものね。
このなかに「ピアノレッスン」という作品があります。
人気も実力もある若手女流ピアニストがある日突然ステージに恐怖を抱くようになる。
恵まれた家庭に育ち、ピアニストとして順風満帆なキャリアを重ねていくのだが、いわゆる「広場恐怖症」になる、飛行機の席でもコンサートの会場でも閉ざされた空間がだめらしい。
元来まじめな性格で必ず早め早めに時間厳守する主人公の友香さんはいい加減にするという事が出来ず、症状が悪化するのだが、伊良部先生の勧めにより、演奏前にしりとりをしたり、グレングールドのようにハミングしながら演奏したり、極めつけはコロナの空き時間を利用して結成したマユミさんのロックバンドにキーボードとして参加して体の中に溜まっていたすべてを吐き出す経験をした。
その後、マネージャーさんの故郷である奄美大島で琉球時間でののんびりしたコンサートでゆったりした気分になった。
よくスランプになったら鬼のように練習して現状突破するのが必ずしも王道ではないというのはよく言われることですが、伊良部先生の治療法はいわば逆転の発想ですね。
表題作の「コメンテーター」では、コロナ禍での行動規制に関して、じゃあ外出なきゃいいでしょ!とマユミさんは言うのだが、言われてみりゃそうかもなと妙に納得してしまいました。
のど元過ぎりゃ熱さ忘れるーそういえばこの3年間は何だったのでしょうかと改めて感じました。