カテゴリ:旅行記 中欧8ヶ国 '12.9月
さすがに、夜行列車は乗客も少なく、全てのコンパートメントが埋まるというのは珍しい。
それなのに、そのコンパートメントが全て満室だとは、 ミシェル車掌が言うように、世界中の人が今夜旅行に出ることにしたか、 前もって、全て計算されていたか、、、 あ、これは、アガサ・クリスティ作『オリエント急行の殺人』での話。 さすがに寝台車両を使うほどの贅沢な旅は、今回の私にはできなかった。 それでも一応、予約席なのだが。 だから、6席ある3つずつ向き合う形のコンパートメントに横たわった。 一人きりの時もあるし、見知らぬ男性と一緒になったこともある。 そういう時、なまじ個室なだけに異様な緊張感がある。 照明を消した室内は、車窓から時々忍び込む青白い灯が走り去るくらいだ。 そして、静寂の中をゴトンゴトンと響く音。 そんなコンパートメントでも、昼間となれば話は別だ。 個室ゆえか、目が合えば二言三言交わしたり、先に降りる者は「じゃ、お先に」と声を掛けて席を立つ。 全く目も合わさない乗客は、数知れず乗った列車の中で2~3人もいただろうか。 それは、セルビアのノヴィ・サド駅から乗った時のこと。 珍しく大混雑の乗客で、私は一つだけ空いた席を見つけた。 コンパートメントの6つの席のうち、埋まっている5つの席には仲間らしい16、7の男の子達が陣取っていた。 何やら大いに盛り上がっている。 だから、わざわざドアを開いて、そこへ座ろうとする者はなかった。 かといって、ぎゅうぎゅう詰めの廊下に立つのもしんどい。 ノヴィ・サドからベオグラードまでは1時間半ほど掛かる。 しかも、列車はすでに30分遅れだ。 「ここ、いいかしら?」 私はドアを開けながら、恐るおそる尋ねてみた。 「どうぞ! どうぞ!」 全員が手を伸ばし、にこやかに答えてくれた。 え? 意外な反応に思わず拍子抜け。 向かい側の真ん中の席に座る男の子が、一番に話し掛けてくれた。 「もしかして、日本人?」 「ええ。」 「ほら!やっぱり~。俺の勝ちだ!」とでも言っているのだろうか、勝ち誇った表情で仲間を見回した。 この列車内を見渡しても分かるように、あまり東洋人を見かけることはないらしい。 もしかして、私が何人(なにじん)か賭けていたとか?(笑) 「こいつ、日本語の詩を知ってるんだぜ。」 彼は一人の男の子を指さした。 すると、私の同列の右端に座っていた男の子が、ひとつの詩を音楽に乗せて歌い出した。 どこで聴いたか、それは戦前の古い映画にでも出て来そうな唄。 私はそれを知らなかったが、日本人なら懐かしさを感じる唄だ。 男の子にしては高音の、優しい歌い方だった。 君、本当にセルビア人? 私は驚きを隠せず、彼の顔を覗きこんでみる。 「ね、合ってる?^^」 そう言って、今度は彼の方が私を覗きこんできた。 「うん、合ってるよ。^^」 間違いなく、日本語だ。 だから、合っているはず・・・。 しかし、その歌詞が古過ぎて、正直、意味すら分からなかった私は、自分が日本人かどうかの自信がなくなってきた。(笑) 見るからに大柄で、眉もまつ毛も太くて濃い 西洋人にはない彫りの深い顔達だった。 だから、本当はこの席に座るのに勇気がいった。 だが、列車の風景にこんな思い出を残していってくれたのも、 セルビア青年の気さくで温かい人柄と、コンパートメントという独特の空間のおかげだろう。 社交場としても、はたまた殺人事件の舞台としても(!)、列車はスペシャルな存在感でもって楽しませてくれる。 写真は、一枚目がドイツ、ミュンヘン中央駅構内。 二枚目が、この日記に登場するセルビアはノヴィ・サド駅ホーム。 Google map<2012.09.15 Beograd - Novi Sad> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.11.01 06:10:12
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