カテゴリ:旅行記 中欧8ヶ国 '12.9月
そのシンプロン=オリエント急行は、終点のカレーを目指し、イスタンブールを出発した。
カレーという町が、海峡を挟んで英国と向き合うフランスの都市だということは、ロダン作の彫刻『カレーの市民』のおかげで、私でも知っていた。 順調に進めば、3日後にはヨーロッパ大陸を横断できるはずだった。 だが、事件は起きた。 ユーゴスラビアで。 ベオグラードを21時15分に発車し、その3~4時間後のことだった。 列車は大雪のため、立ち往生している。 ここまで書けば、いや冒頭でお気づきか、 私は今、アガサ・クリスティの代表作『オリエント急行の殺人』を読んでいる。 日頃 推理小説に手を出すことのない私が、夢中で貪っているその理由は、 ユーゴスラビア、そして列車という舞台設定に引かれたからだ。 育った処が鉄道と縁の深い町だからか、私は乗り物の中で一番列車が好き。 四国鉄道発祥の地であるとともに、高知行きと松山行きの列車が私の町で分かれる。 キキィ~。 昔はここで、それらの列車を連結したり切り離したりしていた。 時に不愉快に感じる その音も、知らぬ間に町の音風景となっていたようだ。 今でも夜になると、駅から数分のわが家には、ゴトンゴトンと走る音が風に乗って運ばれてくる。 だから、乗らなくても それは子供時代の私の日常にあった。 EU を出ると、列車においてもパスポートチェックが行われる。 クロアチアはクロアチアの、セルビアはセルビアの独特の雰囲気でもって、それは行われる。 真夜中の国境越えでは顕著に表れた。 ドキドキする瞬間である。 真っ黒な夜のとばりの中、キキキキキィ~とブレーキがかかる。 話し声が隣りから漏れてくる。 すると、私の居るコンパートメントのドアが開き、シャッとカーテンが開かれた。 紺色の制服を着た2人の男が立っていた。 無言の圧力感がある。 外には、照明の乏しい長いホームと、何本も伸びる線路の上を寄り添って歌いながら去って行く4~5人の男の子達が見えた。 吐く息が白いのが私からも分かる。 セルビアは 『Sid』 という駅だ。 彼らはフードを頭に被せ、ズボンのポケットへ手を突っ込む。 彼らが身を寄せ合っているのは、思いの外 寒さ厳しいせいだ。 執拗にジロジロと人の顔を眺めた警官からパスポートを受け取ると、私は足を伸ばした。 なのに、すぐ別の男が入って来る。 変な物を持っていないか、探知機のようなもので座席下まで調べられた。 30分くらいしただろうか、確か20分は優に過ぎたと思う。 ゴ、ゴトン、ゴトンゴトン、、、ゆっくりと列車は再び夜を走り出した。 しかし、それも数分のこと。 またも列車はキキキキィ~と停まり、クロアチア側のチェックが始まった。 気持ち、セルビア側よりも優しい感じがしたのは気のせいか? オリエント急行のような贅沢な列車の旅はできなくとも、その線路も そこから見える風景も変わりない。 作品が生まれて80年近く経ているといっても、暗闇に隠れた正体は、どこまでも続く黄色いトウモロコシ畑に違いないだろう。 雪が降っているか、 殺人事件が起こったか、、、の差ぐらいである。(笑) 果たして、犯人は私の思う人物なのか。 異文化の行き交う孤絶の空間、それが立ち往生した場所に、アガサ・クリスティは何故ユーゴスラビアを選んだのか。 ヨーロッパ鉄道の旅、私はまだしばらく楽しめそうだ。 写真は、一枚目と二枚目が、どちらもセルビアのベオグラード中央駅。 三枚目はこの日記と日にちもルートも異なるが、二度目の夜行となったクロアチアのスプリット駅ホーム。 Google map<Salzburg ~ Beograd > お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2012.10.30 19:50:58
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