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私は一昨日、東京薬科大学のセミナーを聴講した。その第1部は、薬学部臨床薬理学教室の岡希太郎教授による『生活の中の薬理学 ~コーヒー一杯に秘められた効果~』だった。門外漢の私がどれほど理解したかは我ながら疑問だが、先生の講義をここにもう一度たどってみることにしよう。
現代の疫学調査によると、コーヒーの薬効として、2000年にパーキンソン病予防効果が、2004年に2型糖尿病予防効果が、2005年に肝臓癌予防効果と肝炎予防効果が、2006年にはアルコール性肝硬変予防効果が、つぎつぎに報告されている。また、2005年にはコーヒーによるパーキンソン病の治験が開始されている。このように疫学調査では予防薬としてコーヒーが効果があるらしいと分かったものの、それではコーヒーの何が効いているのか。岡希太郎教授とそのチームの研究の主眼は、その分析と薬効成分の抽出、ならびに証明である。
コーヒーに含まれる成分は、生豆と焙煎豆では異なる。
【生豆】 【焙煎豆】
ミネラル(マグネシウム等) ミネラル(マグネシウム等)
カフェイン カフェイン
トリゴネリン 香りの成分(200種以上)
クロロゲン酸(UCC添加物) ビタミンB3(ニコチン酸)
カフェー酸 蟻酸、酢酸
テルペン 未知の化合物1
炭水化物(糖分) 未知の化合物2
タンパク質(アミノ酸) その他の未知化合物?
生豆の成分が焙煎中に変化するわけだが、
1. 変化しないもの----カフェイン
2. 常に変化するもの----200種以上の香りの成分
3. 減るもの----トリゴネリン、クロロゲン酸、ショ糖
4. 増えてまた減るもの----ニコチン酸、クロロゲン酸ラクトン、5-HMF、?メイラード化合物、?コリン作動性化合物
上記2004年に発表された2型糖尿病予防効果に関する疫学調査は、フィンランド国立公衆衛生研究所によるものである。35~64歳の健常者14600人の調査で、「コーヒーをたくさん飲むほど、2型糖尿病に罹る危険が小さく」なると述べている。
1日3~4杯で、女性は29%、男性は27%の発症率低下
1日10杯以上、女性は79%、男性は55%の発症率低下
私たちが日常的に目にし耳にするインシュリンであるが、それはいったいどのような働きをし、また、糖尿病とはどのような関わりがあるのだろう。
食事をすると胃と腸においてグルコースが吸収される → 吸収されたグルコースが膵臓に働きインシュリンが出る → インシュリンは直接経路で肝臓に働く。また間接経路で脳にも作用し、迷走神経が肝臓に働きかける(2005年に発見) → 肝臓は、グルコースをグリコーゲンに変えて貯蔵する。これによって血糖値が下がる。
ところが食べ過ぎや高脂肪食は、インシュリンの働きをいわば上回ってしまい、グルコースはグリコーゲンに変らず糖として血中に出る。これが糖尿病発症のメカニズである。
医学雑誌として最も権威ある『ニュー・イングランド・メデシン』によれば、生活習慣の3大要素すなわち、1)食事、2)運動、3)ストレス----この一つを守れば、糖尿病のリスクは11%に下がり、食後高血糖を防げば心筋梗塞リスクの90%はなくなるという報告をしている。
ここで守るべき食事とは、
腹7分目(食べ過ぎ禁物)― 肥満予防
30品目(食材の種類を増やす)― 食べ過ぎ予防
油は少なく(低脂肪食)― 備蓄脂肪削減
規則正しく(朝・昼・晩)― 食後高血糖予防
また、守るべき運動とは、1週間に30分の運動をすること。これで糖尿病のリスクを低減できるという。
さて、2型糖尿病予防効果を説明するコーヒー成分は次ぎのように証明されている。
クロロゲン酸・カフェー酸 ― グルコース吸収抑制作用
(注・クロロゲン酸は吸収されない。カフェー酸になると吸収される。カフェー酸の効能を証明する必要あり)
クロロゲン酸ラクトン ― インシュリン感受性亢進作用
ニコチン酸(ビタミンB3) ― 脂質代謝改善作用(特に、HDL-C(善玉コレステロール)上昇作用)
(注・量が少ない)
カフェイン・ニコチン酸 ― 抗炎症作用、細胞保護作用
しかし、この成分効果は、岡教授によれば一長一短があって、コーヒーが効くという実感がわいてこないのだという。
岡教授のチームが注目しているのは、コーヒーのメイラード熱反応産物。すなわち、コーヒーのタンパク質・アミノ酸と糖分を加熱すると、揮発性メイラード化合物(香りの成分)と不揮発性メイラード化合物とが抽出される。前者は構造が変化してビタミンB3群となり、これが脂質代謝改善をする。そして、後者の不揮発性メイラード化合物がコルチゾール代謝の改善をし、これがメタボリックシンドロームを予防する。これは副腎皮質ホルモンの分泌制御メカニズム、すなわちコルチゾール代謝酵素(11β-HSD-1)の臓器特異性に関わっている。このメカニズは大変興味深いのであるが、このブログで述べることでもあるまい。
コルチゾールはコレステロールを原料にしてつくられ、生命に必須である。たとえばダイエットでコレステロールが減少してコルチゾールが減少すると死にいたるのである。しかしまた内分泌代謝系の疾患により、コルチゾール血中濃度が上昇すると、それが直接の原因となって身体所見に変化が起る(クッシング病=副腎癌)。メタボリックシンドローム(代謝異常)の原因も副腎皮質ホルモンにある。
コルチゾール代謝酵素(11β-HSD-1)の臓器特異性というのは、肝臓と骨格筋にはグリコーゲンが多く、コルチゾール代謝酵素(11β-HSD-1)が優位に働いてコルチゾールが増える。したがってこのコルチゾール代謝酵素阻害薬が見つかれば糖尿病を予防できるということになる。
岡希太郎教授の東京薬科大学チームは、11β-HSD-1阻害薬として、焙煎コーヒー中の不揮発性メイラード化合物を発見した。
東京薬科大学(岡希太郎教授他)とTAMA-TLOとの共同研究チームは、成分ブレンド・コーヒー(健康コーヒー)に関する特許を出願中だということである。
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