国道352号は、新潟県柏崎市を起点に長岡市、魚沼市、福島県南会津郡、日光市、鹿沼市、下野市を経て栃木県河内郡上三川町を終点とする一般国道である。
と云ったものの、私はこの道路を通ったことはない。昔昔、まだ国道に昇格する以前の1963年(昭和38)、私たち一家が八総鉱山を去る時に、南会津郡田島町糸沢羽塩と鬼怒川の区間を通ったことがあるのだが・・・。そうそう、八総鉱山小学校6年生の修学旅行が日光だったので、バスに揺られてその区間を往復したこともあった。羽塩が旧日光街道との分岐点なのだ。現在もそうらしいが、会津線の陸橋の下をくぐって行く。
田島町はその後、近隣の町が合併して、現在は南会津町というようだ。そのことを知ったのは昨夜である。昨日のブログに会津若松に行く予定であると書いたが、東京から鉄道で行く場合、ふたつのルートがある。一つは、東京駅発の東北新幹線で郡山まで行き、磐越西線に乗り換えて会津若松着。二つ目は、浅草から会津鬼怒川線で会津高原尾瀬口駅まで行き、会津線に乗り換えて会津若松到着。
(上越新幹線で新潟に出て、喜多方経由で入ることもできるし、喜多方とは反対方向の只見経由で入ることもできるが、今回はそれは無しだ。)
私は二番目のルートが未経験なので、1時間半ほど余計にかかるが、こちらにしてみたい気持がある。
会津鬼怒川線は、歴史的には日本鉄道建設公団により1966年に会津滝ノ原(現・会津高原尾瀬口駅)と今市とを結ぶ野岩(やがん)線として着工した。が、国鉄再建法の施行によって工事が凍結され、その後、野岩鉄道株式会社が設立されて工事を引き継ぎ、東武鬼怒川線と結ぶ路線に変更して新藤原駅を起点とする会津滝ノ原あらため会津高原駅間が1986年に開通した。
こんなことを述べたのは、じつは野岩線の実現には私の亡くなった父がいささかの努力をしていたからである。父は八総鉱山の社員であったが、田島町議会の議員を2期務め、その最後の仕事が野岩線の実現だった。沿線の住民にとっては明治時代からの悲願であったようで、父の時代の議会議員はのっぴきならない期待が寄せられていたのだった。
先に述べたように、私たち一家は1963年に去ることになってしまったので、父は建設の着工を見ることはなかった。開通したときに田島町から東京の我家に知らせがとどいた。しかし父は都合がつかず、式典に出席することができなかった。父は亡くなってしまったので、私だけでも一度、この鉄道に乗ってみたいと思っているわけだ。
話がついつい鉄道のことになってしまった。国道352号のことだった。
インターネットで鉄道ルートを調べていて、旧八総鉱山の地図を見て驚いてしまったのだ。なんとその国道352号とやらが、昔、八総鉱山に住んでいたときの我家のすぐ裏をはしっているではないか! 近くというのではない、まさにすぐ裏をだ! そこから新潟方面へ向って右に迂回して、子供のころ遊んだ龍沢に添って三角山のふもとを通って只見・檜枝岐(ひのえまた)の方に向っている。
我家の裏といっても、山だった。山また山の峡谷のようなところに開けた鉱山町。現在はあとかたもない、幻の町。しかも龍沢の奥地は、子供たちは無論のこと大人たちでさえたぶん誰ひとりとして足を踏み入れたことはないであろう。私は、植物を索め、蝶を索めて、ヤマカガシ(蛇)に追いかけられながら奥へ奥へと踏み入っていたのだけれど。
地図によれば、国道はその龍沢の岸から100メートルも離れてはいない。あの山を掘削したというのか!
国道352号は3期に分けて開通したらしい。現在も、長岡市の旧山古志村近辺が未開通だそうだが、第1期が1975年に、第2期が1982年に、第3期が1993年に開通している。部分的には1.5車線という険しい道がつづくようだが、さもあろう。昔の様子を思えば、私にはあそこに国道が敷設されようとは想像ができない。まったく驚きだ。
八総鉱山が完全に閉山されたのが1971年だというから、それから4年後にはこの道路が完成していたことになる。ということは、私たち一家が去ってまもなく、道路開鑿工事が始まったのであろう。
そういえば、昭和29年に私たちが八総鉱山に転居したとき、会津滝ノ原と八総鉱山とを結ぶ約4キロの道路はいまだ幅のせまいものであったが、鉱山が本格的に稼動すると一級産業道として整備された。その当時、道路わきの山肌に途中で工事を放りだしたような跡があった。私は子供心にあれは一体何のためなのだろうと思っていたものだ。昭和29年以前に着工して、中断したものにちがいなかった。・・・あれが国道352号となんらかの関わりがあるのだろうか?
私は44年前の記憶をたぐり、さらに国土開発という大事業の成果にあっけにとられながら、ほとんど幻想的ともいえる八幡の薮知らずに踏み迷う。
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Last updated
Oct 22, 2007 12:31:47 PM
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