いやー素晴らしい! NHK・TVで〈スーパー職人大集合 技能五輪に挑んだ若者たち〉を見ての率直な感想である。
技能五輪。昨年11月15日から18日まで静岡県で開催された国際大会で、正式名称を『2007年ユニバ-サル技能五輪国際大会』(International Skills Festival for All, Japan 2007)といい、「第39回技能五輪国際大会」と「第7回国際アビリンピック」の総称である。世界のトップ・クラスの技術を有する、いわゆる職人さんの国際競技だ。
この大会に日本の20才前後の若者が出場し、なんと16個もの金メダルを獲得しているという。番組はその若者たちをスタジオに招いて、プロフィールと挑戦への道のりを紹介したのであった。
そもそも技能五輪とはいかなるものか。静岡県庁のウェブサイトによれば、7つのジャンル、35の職種、加えて今大会に初めて登場した看護・介護職によるA・B・C・D4つのルールに別れた、まさに国際五輪というにふさわしい熾烈な競技である。
以下に概略を記してみる。【】内はジャンル、●印が職種。
【電子技術系】
●メカトロニクス●電子機器組立●電工●工場電気設備
【建築・建設系】
●タイル張り●配管●石工●広告美術●家具●建具●建築大工●造園●れんが積み●冷凍技術(冷凍庫やエアコン等に使われる冷媒配管設備の加工)
【機械系】
●機械製図CAD●自動車工●製造チームチャレンジ
【金属系】
●溶接●自動車板金●車体塗装●金属屋根葺
【サービス・ファッション系】
●貴金属装身具●ビューティセラピー●美容/理容●フラワー装飾●西洋料理●レストランサービス●
印刷●洋菓子製造●洋裁
【情報通信系】
●ITPCネットワークサポート●グラフィックデザイン●情報技術●情報ネットワーク施工●ウェブデザイン
【その他】
●看護●介護
これらが次の4つの部門にわかれる。
(A) 4日間通じて1つの課題を作成する。
(B) 4日間通じて複数の課題を作成し、最終的に1つの課題を作成する。
(C) 日ごとに課題を作成する。
(D) その他。
どのような競技がおこなわれるかというと、
たとえば(A)部門の〈精密機器組立〉の場合、「製造、組立て、保守、および制御工学の領域における競技課題に基づく実作業」である。この部門の金メダルは日本の若者だったが、彼の旋盤技術は1000分の1ミリを削り出すという。旋盤機械の目盛りは100分の1までしかないそうで、1000分の1というのはまったく彼の肉体的感覚によるのだというから驚嘆する。
(B)部門だと、〈工事電気設備〉の場合、「現場想定の制御装置作成(メイン課題)の他、プログラミング等4つの課題を4日間22時間で完成させる。
(C)部門の〈西洋料理〉は、1日目・コースメニュー作りと仕込み、2日目・冷たい料理とデザート(計4品)、3日目・コースメニュー4品の料理、4日目・コースメニュー3品の料理。
「すぐれて高度な技術の獲得は人格の陶冶をもたらす」というのが私の人間観察なのだが、この技能五輪に挑戦して優秀な成績をおさめた青年諸君は、その道ではいまだベテランというには遠いのだけれど、すでに技術研鑽の過程でかくじつにある哲学的真実に到達していると思えた。私はそこに感動し、ふいに涙あふれたのだった。すばらしい青年たちがいるのだ!と。
私は職人わざがことのほか好きである。昔、私の作品の実物をたまたま見た人が、その場にいた私が作者だと知って、譲ってほしいと言ってきた。新潟から上京していた職人さんだという。私の細部の仕上げ方に、職人としての魂がゆさぶられるのだ、と。嬉しいことばだった。私は一般の読者や観客に御会いする機会はめったにないし、その声を直接ぶつけられることは一層少ない。
「技術的には職人芸をめざしているとも言えるんです。職人さんを尊敬しておりますので」と私は言った。
それは事実であった。私の油彩技法は最終的表層の下に何層もの仕組みがあるからだ。
作品を譲ることはできなかったが、このような人に自分の作品が所有されたら、作品も幸せであろうと思った。
私の蔵書にも、職人噺は多い。すこしだけ書名を挙げてみようか。
●斎藤隆介『職人昔ばなし』(文春文庫)
●師岡幸夫『神田鶴八鮨ばなし』(草思社)
●初代彫清凡天太郎『肌絵 ― 日本の刺青』(立風書房)
●青山茂編『正倉院の匠たち』(草思社)
●西岡常一・青山茂『斑鳩の匠』(徳間書店)
●西岡常一『木に学べ』(小学館)
●バーナード・ルドフスキー『驚異の工匠たち』(鹿島出版会)
●藤本康雄『ヴィラール・ド・オヌクールの画帖』(鹿島出版会)
小説だと、このブログで書いた100円古本のなかにもある。
●佐江衆一『江戸職人奇譚』(新潮社)
●佐江衆一『自鳴琴からくり人形 江戸職人奇譚』(新潮社)
●辻邦生『江戸切絵図貼交屏風』(文藝春秋)
●杉本章子『東京新大橋雨中図』(新人物往来社)
●飯嶋和一『始祖鳥記』(小学館)
まあ、このくらいにしておこう。
きょうは成人の日。NHKのテレビ番組はそれにちなむところもあったかもしれない。成人になったというと、酒だタバコだと応じるやからも少なくないが、世界に冠たる技術を身にそなえた若者の存在を知って、未来の日本をつくるのは愚かで無能な政治家どもや省庁の腐敗した官僚どもではなく、これらの青年たちなのだと嬉しくなったのだった。
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Last updated
Jan 16, 2008 09:39:53 AM
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