たった今、午後2時半、突然サイレンを鳴らして消防車の疾駆する音。どこかで火事か?と思うまもなく、その音が、我家のごく近所に止った。「エッ? 冗談じゃないぜ」と、聞き耳をたてながら、もしもの場合に病床の老母の搬出をどうするかを考える。
どうやらごく近所のアパートのようだ。我家は少し高台にあるので、仕事場の窓をあけるとそのアパートが見える。のぞいてみると、消防士たちがまさに私の目の下に見える二階の一室の窓に外から伸縮梯子をかけはじめているではないか。通りに目をむけると警察官の姿も見える。
どうも火事ともちがう雰囲気が漂っている。大声の無線でのやりとりも聞こえる。それをここに書くわけにもゆかないが、窓ガラスを破壊しなければならないかなどと言っている。なにしろ私の目の前で事態は展開しているので、私はそのまま見ていた。消防士も私に気がついたけれども、見るなとも言わない。「火事ですか?」と私は聞いたが、大声のやりとりをしているので聞こえなかったようだ。
消防士は窓のサッシをたたいていたが、ガラスを壊さずにすんだようで、靴にカヴァーをかけて侵入した。中から玄関ドアの施錠を解除したらしく、そちらから警察官も入ったようだった。
そとから指示がとんでいて、それがすべて私の耳にも聞こえる。
しばらくして窓から侵入した消防士は出てきた。行動をいちいち下に告げながらカーテンを閉め、窓を閉め、ベランダにロープで固定していた梯子のそのロープを解いて、地上に降りた。報告の内容も聞こえてくる。「生活臭もあります」などと。
30分ほどで全員がひきあげていった。
いったい何事だったのか?
どうやらその部屋の住人の知人が長らく連絡をとっていたのだが、まったく連絡がとれないので何事か起っているのではないかと、当局に通報したらしい。消防署と警察は、一応、事件の可能性を考慮して侵入調査したというところだ。
私は先日のいつまでも鳴り続けていた目覚まし時計の件が、ちらと思い浮かんだ。もっとも、そのことが今日の部屋の住人と関係あるかどうかは分らない。
町内自治会でたまに議論されるのだが、独り暮らしの老人をプライバシーに抵触しないように住民がケアすることができるかどうかという問題が思い出される。アパートについてはあまり考慮されなくて、・・・つまり学生等をふくめ入出がはげしいので自治会として対応しきれないというわけで・・・私は何度か検討を要請したが、いまだにシステム化されてはいない。今日のような事態に遭遇すると、やはり気掛りではある。
私は、不安そうな老母に、「だいじょうぶ、だいじょうぶ。火事ではなかったようだ。みな引揚げていった」と伝えた。
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