六十三回目の敗戦記念日に詠む私の歌のない歌40首
壕厭う吾を背負いてグラマンの
機影かぞえおりあの夏の母
乳飲み子の吾をくるみし綿蒲団
機銃掃射の弾貫通せざれよと
乳飲み子の腹満たさんと吾が母は
わずかな米を研ぎし水啜る
流れ藻を集めて急ぐ家路なり
空見上げれば戦闘機の行く
初の子の吾に名付けし、改めよ
戦の歴史、平和いのりて
吾五月十四日に生まれ
八月十五日終戦となりし
一九四五年五月十四日生まれ
古きを継がず吾はよろこぶ
涙涸れ老いしとぞ言う、慟哭は
心中に在り、屍(かばね)踏み来しと
人間は不思議なりしよ、空襲の
劫火美(うま)しと思うことありと
後陣に居りて采振らば前線の
この世の地獄知らず済むらん
生きし者などて戦を美化するや
二百三十万兵の屍(かばね)蛆むす
自らが戦場に出ずば兵は
ただの数、数の数なり
敵ならぬ我が軍隊に殺されしと
山河に充つ怨嗟の声々
暴力は隠微にして常態たり
軍律厳しとは片腹痛し
国民を欺くための謀略のみ
日本軍部智恵はたらきし
尊大に寿命を終えし人のあり
酸鼻きわまる戦場も知らず
かの人の命は重くこの人の
命軽ろしと吾は思わず
戦とは鬼畜になりて殺しあう
それより他に言うべきはなし
人生は短きものよ、などて君
いくさを謀り人を殺すや
なぜかくも野蛮なりしか日本軍
吾が心性に在るものを虞(おそ)る
凝視せよ我等心中の殺の快
仮面の陰の悪鬼の相
人殺し、血まみれの手で妻を抱き
生殖する我等の不気味
生みし子をまた戦場に送りだし
人を殺せと言うも親かな
海行かば水漬(みづ)く屍と歌いしを
サド・マゾヒズムと吾は見抜けり
戦争に肯定すべき意義はなし
吾言い放ち頭を掲ぐ
軍政は理想立たざる体制にて
目的化する軍の存続
軍政はつまり社会の未熟なり
人は本来多様、一ならず
軍政下幸福とは何ぞやこの問いに
応えし人を吾は知らざり
戦史繙く、愚劣さのほか見出せず
暗澹として日本を憂れう
愚劣さを隠さんとする愚劣さよ
学成らずして戦後を過ぐる
好戦は学問にては治まらず
人の心の深き闇なれ
責任の所在あいまいなるをもて
日本文化と言うや君は
古き思想捨てきれずして跳梁
跋扈するかや日本の悪霊
品格を品格なきが言うおかしさよ
かくも日本は空虚なりしか
まやかしの入れ子なりしか我が社会
二千年かけ狂信はぐくみぬ
でたらめを言いて巷間に寵児たり
いまは彼の人も土となりにし
死者なれど鞭打つべきは鞭打たん
過ち糾(ただ)すになんぞ臆する
敵なくば為せぬ人あり自らが
敵なることを知らぬなりけれ
この国に生まれ育ちこの国の
空洞を見つ死ぬるか吾は
吾六十三、顧みれば慙愧のみ
世界は依然として戦争に充つ
2008年8月15日 山田維史
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Last updated
Aug 15, 2008 12:52:08 AM
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