一年中出回っている茄子(ナス)だが、やはり今の時季がおいしいと思うのは気のせいだろうか。
英語でエッグプラント(たまご植物)という。なるほど卵に似ているといえば言える。漢字も分解してみると英語と同様の想像をしているようだ。植物をあらわすクサ冠に、倍にするという意味の「加」。つまり、増やす(殖やす)ということ。「茄」一字でナスを指すけれども、さらに御丁寧に「子」を付けているのだから、まさにエッグプラントである。ありとある植物が実をつけるが、ナスにだけことさら子孫繁栄の意味を与えたのは、やはり見た目(イメージ)が卵に似ているからだろう。私は長らく世界中の卵の象徴について調べてきた。そのときに、まさに卵そっくりな真っ白いナスの写真にであったことがある。植物の茎に卵がたくさんぶらさがっているようだった。
「秋茄子は嫁に食わすな」という俚諺がある。古い歳時記などにも「あまりにも旨いからだそうだ」と説明しているが、これは間違い。そんな意地の悪い嫁いじめではない。茄子や胡瓜などのウリ類は、身体を冷やす食べ物といわれている。秋茄子がおいしいから、食べ過ぎると嫁が身体を冷やして妊娠しにくくなる。それで「秋茄子は嫁に食わすな」と言った。医食同源を旨とする中国から入ってきた知識である。茄子という文字が子孫繁栄をイメージしているのに、食の実際では子孫繁栄のために控える考え方があったとはおもしろい。
焼き茄子もいい、茶筅に切って煮浸しにするもいい、天麩羅もいい。挽肉のはさみ焼きや、ピーマンの千切りと味噌味のキンピラにしてもいい。茄子は油との相性がことのほか良い。私は採れ立てのものを小口から極薄切りにして水に晒し、水気を切ってからほんの少しの塩で揉み、花鰹をのせて食べぎわにさっと醤油をかけるだけのも好きだ。茄子は変色しやすいのでそれが難だが、見た目はどうでも、生の茄子を味わうにはこれがいい。
もちろん洋風料理でもいろいろ使える。トマトとの相性も良いので、グラタンやピッツア、あるいはシチュー。ナスのカレーもいい。
レバノンの友人の家で御馳走になったナスと練り胡麻のペーストはとてもおいしい。ナンのような無酵母パンにつけて食べるのである。
テーブルに紫置けり秋茄子の 青穹
秋茄子や我がパレットの濃紫(こむらさき)
濃紫凝って玉となるや秋の茄子
陽の下にまた灯の下に秋の茄子
秋茄子や坊主頭を撫でにけり
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Last updated
Sep 11, 2008 12:11:47 PM
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