きのう病院の待合室で母の車椅子に手をかけながら椅子にすわっていたとき、小さな音量で流れていた音楽にハッとして心がゆらめいた。それはドヴォルジャークの『ユモレスク』であったが、私は霞をわけて遥か昔に引き連れられてゆくような懐かしさをおぼえたのだった。
聞こえていた『ユモレスク』は、バックグラウンド・ミュージックとしてあらかじめ編曲編集しているようで、主題部とその後わずかな展開部のほかは別な曲に変わってしまった。しかし私の耳にはいつまでも聞こえていて、不思議なぐあいに気持をゆさぶりつづけた。『ユモレスク』の原曲は、たしかピアノ曲のはずだった。が、私が記憶の彼方からおもいだしていたのはヴァイオリン演奏なのだ。
私はいったい何に気持がゆさぶられているのかその正体を思い出したくて、しばらくの間、記憶におおいかぶさっている霞を心のなかで掻き分けていたが、正体はあらわれなかった。
一日経った今日も、その曲の冒頭で2度繰り返される主題を何度も口ずさんでは、子供のころの思い出のどこかに行きつきはしないかと考えていた。どこで聞いたのだろう? 誰が演奏していたのだろう? なぜ数十年も経って、・・・たぶん50年以上になるのではないか・・・不意に涙ぐみそうになるほど心がゆさぶられるのだろう?
私は、いつの頃かは分らないその時に、『ユモレスク』が聞こえていたその場の状況全体に心を動かされていたのだと思う。何だかは思い出せない。だが、何かに・・・
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