朝、裏山でキジバトが太い声でデデッポー、デデッポーと鳴いていた。緑の葉の重なり合った茂みに、山風がさやさやと吹くようなイメージが喚起され、私は夏の朝のキジバトの鳴き声が好きだ。
早朝5時から10時まで、老母の看護であわただしかった。9時の入浴にあわせて、電動介護ベッドのマットレスを新しいものに交換してもらった。訪問入浴のスタッフ3人と、ベッドを借りているショップのスタッフが、広くもない母の部屋で肩擦り合うように行き交う。
すべてが終わってスタッフが引き上げると、さっぱりとして眠る母と私だけになった部屋に、不思議な静けさがおとずれる。母の背に敷いた空調布団の送風機と、足許に置いた蓄電式の扇風機、そして28℃に設定したエアコンデショナーの、それぞれの軽いモーター音が、一層、静けさを深くする。しばらく母の寝息をたしかめてから、私は仕事部屋に移った。
きのうまでコンピューターで装丁の実寸での下絵をつくっていた。
3点ほどつくり、それぞれに文字を入れ、あちこち位置をかえてみて、それぞれにさらに2,3点づつ作った。それをプリントしたものが机の上に8点。最も気に入ったものを実寸大にカットし、ありあわせの本にかぶせてみる。本は立体物なので、立体のダミーを作ってみるのである。
それができたところで、次はコンピューターの下絵のイメージをキャンバスに油彩で描いてゆくことになる。コンピューターで作ったものをそのまま装丁に使う事も可能だが、私はその下絵を気持ちにのみこんだうえで、一旦破壊してしまう。新たに、キャンバスのうえにイメージを創造してゆくのである。
きのうはその下地作りの第一段階をすませた。なかなか良い下地ができた。さいわいカンカン照りだったので、ベランダに出して乾かし、今朝もキャンバスの裏を日にあてて充分乾燥させた。
母を寝かせて、仕事場に入ると、窓を閉め切り、エアコンデショナーを切り、扇風機も切った。何をするつもりかというと、じつは昨日の下地の上に、下地第2段階として箔を貼るのである。箔はミクロンの薄さなので、空気の動きは禁物なのである。
うだるような暑さのなかで作業開始。キャンバスが小さいサイズなので、作業はたちまち終了。暑さのために下塗りのニスの乾きが早く、やや手こずる。しばらく放置してから、タンポンで箔を圧着する。それから丸めたティッシュペーパーでわざと表面をこすって荒らす。・・・これで下地が全部完成。すっかり乾燥するまで一日放置し、いよいよ油彩にとりかかることになる。明日以降の仕事だ。
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