蒸し暑い一日だった。午前0時を過ぎた今も、暑気はおさまらない。長い手紙を書いて、さきほど投函してきた。夜気が湿っていた。
老母の遺品のなかに、母の高等女学校一年生のときの歴史教科書がみつかった。大正13年に改訂版が執筆され、昭和5年(1930年)に文部省検定済となっている。82年前の教科書だ。裏表紙に、ペンで、一年一組として母の名前が記されていた。
「女子用国史」とあるから、別に「男子用」があったのだろう。教育の主旨が異なっていたようだ。著者の識辞に、「婦徳の修養に資せしめんことを期した」とある。歴史学が科学よりはいささか恣意的なものであったことが窺える。 もっとも、現代の文部科学省の方針も、こと日本史に関するかぎり、あまり科学的とは言えない。誰のために為すことか知らぬが、ご都合主義であることを恥じる様子も無い。大学の史学科の学生が、あきれるような見解を得々と話すのを聞いたことがある。我国に科学的な史学が育つのはいつのことやら・・・と、私は思ったことだ。