「顔相」という言葉があるかどうか。今日、まったく見知らぬお婆さんから突然声をかけられた。「おいくつですか?」と。私はびっくりしたが、善良そうではあるしお年寄りなので邪険に扱うこともできず、「67」ですと応えた。すると「あなたは芸術家でしょう?」と言う。これには驚いた。「あなたのお顔を拝見して、すぐに分かりました」
占いではないようだ。直感らしい。何かピンとひらめいたので、見知ったのでもないのに、気持ちの中にとどめておくことができなかったようだ。
それで思い出した。
昔、まだ30歳にならない頃、私を気に入っていたらしい「会長」さんが、ときどき飲みに連れていってくれた。新宿のキャバレー(当時、新宿コマ劇場の近くに大きなキャバレーがあった)に連れられ、ホステスを二人私につけてくれたことがあった。2、3度行ったのだが、その最初のとき、ホステスのひとりがつくづくと私の顔を見て、「芸術家じゃないかしら? しかも私がいままで出逢ったことがないタイプだわ・・・」と言った。
その頃の私は、まだようやく2、3の雑誌に挿画を描かしてもらったばかりで、原稿の描き方さへおぼつかず、異様な熱意だけで生きていた。芸術家どころではなかった。しかも私の服装は、いつも糊のきいたワイシャツにネクタイ、スーツという具合。いまだにジーンズなど着たことがないのだから、画家らしい芸術家らしいという一般的なイメージからはほど遠かった。
私の目を見て、「卒倒しそうになった」と言った男性編集者がいた。
家にいるときは顔も洗わないし髯も剃らない。きょうはちょっと外出するので、髯を当たりながら鏡を見て、年をとって悪相になったなと思ったばかりだった。それで外出先で、冒頭に述べたお婆さんの言葉だ。
10年ぶりにまた自画像日記をはじめようかと思い始めている。
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